赤薔薇の騎士公爵は、孤独なカヴァネスに愛を誓う
「言い逃げするなんて、ひどい女だ。俺はこう見えて執念深い男でな、絶対に死ぬことは許さないぞ」
瞼の裏に滲むのは知的で優しいブルーゾイサイトの瞳に、聖母の如く美しい彼女の笑顔だった。
スヴェンは冷たい唇に口づけると、守り切れなかった悔しさを胸にシェリーを抱き上げて立ち上がる。
「死なせてたまるか。俺は、お前と未来を生きたいのだ」
たとえ死者の国に乗り込もうとも、彼女を手放すつもりは毛頭ない。心が通じ合ったからこそ、余計に失いたくないと心から願った。
スヴェンはアルファスを信のおける騎士に預け、早急に城へ帰還した。即位式は続行不可能と大公が判断し、ルゴーンの望んだとおりに中止となってしまったのだった。
***
シェリーが目覚めたのは、即位式から丸三日後のこと。
目覚めてすぐに教え子であるアルファスの即位式が中止になったと知り、胸が痛んだ。
医者からの診察を受けて目覚めてからかれこれ三時間が経つが、即位式での襲撃事件の対応に追われているスヴェンとは一度も会えていない。
アルファスはシェリーが目覚めたのを確認すると、心を痛めて部屋に籠ってしまった前王妃のところへと向かった。
自分の夫を毒殺され、息子の命まで脅かされたのだ。気が滅入ってしまうのは無理もないだろう。
シェリーも様子を見に行きたかったのだが、体を起こすだけで傷が痛み、身動きがとれないでいた。
そして外に夕闇が広がり、欠けた月が世界を照らす頃。夕食を終えて眠りにつこうとしたシェリーは、部屋の扉がノックされるのに気づいて体を起こす。
「はい」
そう声をかければ、慌ただしく扉が開け放たれた。
「シェリー、目が覚めたのか!」
部屋に飛び込んできたのは、スヴェンだった。
シェリーのいるベットまで駆け寄ってくると、両手を包むように握りしめてくる。
「スヴェン様もご無事で本当によかっ――」
「もう、目覚めないのではないかと思った」
スヴェンはシェリーの言葉を遮り、背中の傷を避けるように腕を回すと強く抱きしめる。
その腕が小刻みに震えているのに気がついて、彼がどれだけ自分を心配してくれていたのかがわかった。