赤薔薇の騎士公爵は、孤独なカヴァネスに愛を誓う
「スヴェン、様ぁっ」
その胸を押し返すも力では敵わず、解放されたのは自分で体を支えられないほどぐったりさせられた頃だった。
「はぁっ、いきなり……ひどいですっ」
スヴェンの胸に寄りかかり、呼吸を整える。
そんなシェリーの濡れた唇を親指で拭うと、スヴェンは口端を吊り上げた。
「すべてを愛するというのは、これ以上にひどいことをするということだ。今のままだと、先が思いやられるな」
「もうっ、スヴェン様!」
彼の胸を叩けば、ははっと笑われてしまう。頬を膨らませれば、スヴェンに優しく体を押されてベットに寝かされた。
「だから、早く傷を治せ」
そう言ってシェリーの体にかけ物を被せると、自身もベットの端に腰を下ろす。こちらを見つめるガーネットの瞳に胸が高鳴った。
「なんだ、そんなに見つめるな」
「あ、ごめんなさい。あなたの瞳が本当に綺麗で、見惚れてしまいました」
見すぎて不快にさせてしまったかと視線を逸らす。
「っ……シェリーは聖母のようで時折、俺を惑わす悪魔のようだ」
「え、悪魔ですか?」
どういう意味かと問うように彼を見上げれば、苦しげに眉根を寄せたあと、困ったように笑った。
「つまり、俺を喜ばせる天才ということだな」
「喜ばれておいでなのですか?」
目を瞬かせて、スヴェンを見上げる。自分が彼を喜ばせた自覚はないのだが、嫌われたわけではないのだと知り安心した。
ホッと息をついていると、スヴェンに片手で前髪を上げられる。不思議に思っていると、
「あぁ、どうやら俺は翻弄されるのが病みつきになったらしい」
「え……きゃっ」
額に口づけられて、小さく悲鳴をあげてしまう。
慌てるシェリーの反応に機嫌をよくしたのか、「かわいいな」と耳元で囁くと、何度も頬や顔の輪郭を愛しそうに撫でてきた。
せっかく助かった命だというのに、今度は騎士公爵の溺愛ぶりに心臓が止まってしまいそうだった。