赤薔薇の騎士公爵は、孤独なカヴァネスに愛を誓う
「スヴェン様にも食べていただきたく……」
正面切って言うのは恥ずかしくて、語尾がすぼんでしまう。いつもはっきり意見を述べるシェリーが珍しく歯切れが悪いことにスヴェンは目を見開いていた。
取り乱す自分を見られ、赤面しながら俯いていると頭に大きくて無骨な手が乗る。
驚いて顔を上げれば、優しい眼差しに出会った。
「お前は本当に愛らしいことをする」
愛らしいなどと躊躇することなく口にするスヴェンに、どんな顔をしていいのかわからない。とにかく照れくさくて、カゴをギュッと抱きしめながら聞き返す。
「そ、そうなのでしょうか?」
「あぁ、愛らしい。歳のわりに大人びているかと思えば少女のような一面もあり、見ていて飽きない」
頭を撫でられ、その手はシェリーの抱えていたカゴに伸びる。
「これは俺が持とう」
「ありがとうございます」
カゴを持ってくれたスヴェンの気遣いに、密かに胸をときめかせる。仕事が休みのときも会える幸せを感じて、隣を歩きながらこっそり微笑んだ。
シェリーは城に間借りしているスヴェンの部屋に案内された。
壁際のキャビネットの中には分厚い本がぎっしりと並んでおり、部屋の中央には四角いテーブルを挟んで美しい曲線を描く金縁のソファーがある。
これらの部屋の家具はオーク素材で統一されており、赤いペルシャ絨毯と合わさると厳格な印象ながらも気品があった。
ソファーに向かい合うように腰かけながら、黄金色のマドレーヌを食べるスヴェンを恐る恐る見つめる。
「これは蜂蜜か。他はなにが入ってるんだ?」
手にマドレーヌを持ったまま、スヴェンがこちらを見る。
「レモンの皮です。この蜂蜜レモンマドレーヌは学舎の生徒たちのお気に入りでして、授業のたびに作ってとせがまれるのです」
今日の授業の休憩時間に見れた生徒たちの笑顔を思い出して、胸が温かくなる。毎回このマドレーヌを作るのは、子供たちに喜んでほしいからだ。
甘いものは人を笑顔にする。だから、このマドレーヌを食べればアルファスやスヴェンも元気になってくれると思ったのだ。