赤薔薇の騎士公爵は、孤独なカヴァネスに愛を誓う
「お前は優しい顔をするのだな」
ソファーから立ち上がり、隣にやってくるスヴェンを見上げて「そうでしょうか?」と小首を傾げる。
スヴェンは何も答えずにシェリーが座るソファーの背もたれに手をかけて、腰を屈める。
急に近づいた距離に身を仰け反らせると、顎を掴まれた。
逃がすまいとゆっくりと顔を近づけてくるスヴェンに押し倒されるような格好になり、シェリーの心臓はバクバクしだす。
「あの、近いです。スヴェン様」
「怪我が治ったら、お前のすべてを愛したいと言っただろう」
彼の声は、ふたりっきりの部屋で甘く響く。じんじんと頭の中が痺れて、もっと聞いていたいという中毒性があった。
「でも、まだ治ってな……んっ」
その先は言わせてもらえなかった。
ガーネットの瞳が煌いて、瞬く間に唇を彼のもので覆われる。唇を啄まれるたびに、体中が発熱して蕩けてしまいそうだ。
「我慢ができない。叶うなら今ここでお前のすべてを奪い去りたいところだが、無理はさせられんからな。少し補充させろ」
懇願と焦りが混在したようなかすれた声が耳元をくすぐり、ビクリと体が震える。
触れたいのはシェリーも同じだった。
だから、答えの代わりに彼の胸元の軍服を強く握りしめて、その顔を見上げた。
「っ……上目遣いはずるいな。お前は俺をひどい男にしたいのか?」
「えっと、はい?」
「わからないなら、いい。それがお前の魅力でもある」
疲れを滲ませた口調で困ったように笑ったスヴェンは、再びシェリーの唇に自身のものを寄せる。
吐息が、視線が絡み合い、声にならない〝愛してる〟が聞こえた気がした。
二度目に重なった唇は、味わうようにゆっくりと触れて離れていく。
スヴェンとの口づけは、蜂蜜レモンの味がした。
「あまりくっついていると、アルファス様に嫉妬されてしまうな」
スヴェンはシェリーの唇を親指で撫でると、隣に腰かけてそう言った。