赤薔薇の騎士公爵は、孤独なカヴァネスに愛を誓う
朝食後、彼の帰りを待ちながら邸で過ごしていると庭にアルファスの姿を見つける。
管理する者がおらず、荒れ果てているそこに立ち尽くす彼の背中は心細そうに曲がっていた。
シェリーは洗いたてのシーツが入ったカゴを手に、アルファスに近づく。なるべく自然を装って、彼の隣にある洗濯竿の前に立つとシーツを叩いて干していった。
「なにやってるんだ?」
ぼんやりと尋ねてくるアルファスとは、あえて視線を合わせなかった。
洗濯に集中しているふりをして、なにげなく会話を繋げる。
「洗濯ですよ。おふたりが眠るとき、お日様を浴びてふかふかになったシーツに癒されてくれると嬉しいので干しているのです」
それを聞いたアルファスは「そうか」と短く答えて、一緒にシーツを干してくれた。
竿は高いが、背伸びすればなんとか届きそうだったので、見守ることにする。
そうやって風の吹く音と鳥の囀りだけが聞こえる庭で淡々とシーツを干していると、「あのさ」とアルファスが声をかけてきた。
「はい、なんでしょう」
視線はシーツに向けたまま、返事をする。その方が心がささくれ立っている彼も話しやすいと思ったからだ。
「僕も王位を継ぎたくないなんて軽々しく口にしたらいけないこと、わかってる」
それは昨日、スヴェンに言われたことを話しているのだろう。
シェリーはカゴから新しいシーツを取り出して彼の話を邪魔しないように、あえて相づち入れず続きの言葉を待つ。
「でも大事な人たちがいれば、地位などいらないという気持ちも本心だ。国王である意味がわからない」
そう言って、アルファスがこちらを向く。迷子のように揺れる碧眼をシェリーはまっすぐ見つめ返した。
「王は誰よりも理不尽で、裏切りのあふれる茨の道を歩まねばならないそうです」
城から逃亡する馬車の中で、スヴェンが本当に伝えたかった気持ちを代弁する。
「王でなければ、その理不尽から大切なものを守れない。スヴェン様はそうおっしゃっておりました」
「スヴェンが?」
「そうです。きっと、今の辛さを乗り越えて強くなってほしいのでしょう。それに私もアルファス様の作る国が見てみたいです」
風が彼の白銀の髪を揺らし、太陽を浴びて白く輝く。いつか彼を見下ろすのではなく見上げるようになる日が来るのだろう。
そのときシェリーは側にいることが叶わないが、アルファスの創る希望ある国の中で自分らしく生きていると信じたい。