赤薔薇の騎士公爵は、孤独なカヴァネスに愛を誓う


「身分関係なく、誰もが活躍できる社会を皆が望んでいますから。あなたの掲げる理想郷を現実にしてほしいのです。それはアルファス様にしか、できないことですから」


 学舎の子供たちの顔を思い出しながら、未来の王に願いを託す。今まで幾度となく自分の立場を憂いてきたことだろう。

 でも、自分の教え子であるアルファスを信じている。スヴェン同様にこの苦しい状況を乗り越えて、今度こそ戴冠する日を。


「僕にできるだろうか」

「あなたは私に、強くなりたいと言いました。そのために知識という名の武器を身に着けてきたのでしょう?」


 アルファスはハッとした顔をした。
 出会ったばかりの頃、彼はこの言葉の意味を少しも理解できていなかっただろう。

けれど、誕生祭のダンスも即位式の予行も真剣に取り組むことで周囲からの信頼も高まった。

身に着けた教養や知識が、彼を国王として輝かせてくれたのを実感できたはず。


「そうだな、シェリーの言う通りだ。僕のために命を張ってくれる人たちのためにも、逃げちゃいけなかった」


 風にはためくシーツを眩しそうに見つめながら、自分で答えを導いた彼は清々しい表情をしていた。

 目の前の小さな両肩に手を乗せて目線を合わせるようにしゃがみ込むシェリーに、アルファスは目を見張る。


「でも、本当に苦しくなったときは、私にだけこっそり吐き出してもいいのですよ? あなたは国王であると同時に、私の教え子なのですから」

「シェリー……ありがとう」


 瞳を潤ませて泣き笑いを浮かべるアルファスに、首を横に振ってその手を握る。


「では、スヴェン様と仲直りしなければなりませんね」


 アルファスは「うっ」と呻いて、顔を顰める。それだけで素直に謝るのに抵抗があるのがわかった。


 男の子だな、と微笑ましい気持ちで眺めながら、空の洗濯カゴを抱えて立ち上がる。


「私に作戦があります」


 片目を閉じて安心させるように笑えば、アルファスは「作戦?」と首をかしげた。

 太陽が天頂を通過した頃、シェリーはアルファスとともに厨房に立ち、一緒にマドレーヌを作っていた。


 ローズ家の別荘は他の貴族が所有しているものとは違って狭く、本邸のようにリビングと厨房が分かれていない。厨房からリビングを見渡すことができる造りになっていた。


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