赤薔薇の騎士公爵は、孤独なカヴァネスに愛を誓う
「スヴェン、昨日はすまなかった……」
ぽつりと消え入りそうな声で呟かれたのは、謝罪だった。
さすがのスヴェンも目を見張っており、ナイフを手にしたままアルファスの顔を凝視している。
アルファスは気恥ずかしさには勝てなかったのか、顔はそむけたまま「僕のために命を張ってくれる人たちのためにも、逃げないと約束する」とだけ告げてレモンの皮を刻み始めた。
「ほら、スヴェン様からもなにか言ってあげてください」
固まっているスヴェンの腕を肘で突くと、シェリーは小声でそう言った。スヴェンはハッとしたように、アルファスに向き直る。
「あなたが困難にぶち当たるそのときは、必ず剣としてお側にいると誓います。ですから、この先も歩みを止めないでください」
「スヴェン……あぁ、お前に誓おう」
見つめ合って笑みを交わすふたりを微笑ましい気持ちで見守っていたシェリーは、もう心配ないだろうと胸を撫で下ろした。
このあと、仲直りしたスヴェンとアルファスとともに焼きたてのマドレーヌを食べ、つかの間の休息をとった。
これから待ち受ける厳しい現実のことは忘れて、久しぶりに緊張感から解放された時間だった。
その夜、お風呂を上って自室の鏡台の前に座り髪を梳いていると扉をノックされた。
シェリーは台に櫛を置き、身なりを軽く整えて「はい」と扉を開ける。
そこに立っていたのは、ワインボトルとグラスを持ったスヴェンだった。
「どうしたのですか、このような夜更けに」
目を瞬かせるシェリーに苦笑を浮かべて、「眠れなくてな」と答えるとスヴェンはボトルを軽く持ち上げた。
「少し、付き合ってくれないか」
このような夜にレディの部屋を訪ねることは礼儀に反する。もちろん断るべきなのだろうが、思い悩んでいる様子の彼が気になって「はい」と答えた。
部屋にスヴェンを通し、ふたりでベットに腰かけてお互いのグラスにワインを注ぎ合う。
普段お酒は飲まないので、久しぶりに口に入れたアルコールに少し頭がボーッとした。