赤薔薇の騎士公爵は、孤独なカヴァネスに愛を誓う
八章 誓いの初夜


 翌日、朝食を済ませた頃。ローズ家の別荘の扉が何者かによって叩かれた。

突然の来訪者にシェリーとアルファスが身を強張らせていると、スヴェンは動じることなく「俺が出る」と言って扉へ赴き、予想外の人物を連れてリビングに戻ってきた。


「やぁ、久しぶりですね国王陛下、それからシェリー嬢も」


 ひらひらと手を振って軽薄な笑みを浮かべている彼は、城からの逃亡に手を貸してくれたウォンシャー公爵だった。

 彼の飄々とした態度に驚きながら、シェリーは気になっていたことを尋ねる。


「まさか、どうやってここをお知りになられたのですか?」

「あぁ、それはスヴェンが物騒な使いを寄越してきたからね」

「物騒な使い?」


 若干顔を引き攣らせるウォンシャー公爵から視線を外して、シェリーはスヴェンを振り返る。

どういうことかと問うように見れば、「大げさだ」とどこ吹く風で答えた。


「隣町の路地裏には荒くれものが集まる酒場がある。そこで少し金を積めば、あいつらはどんな仕事でも引き受けるからな」


「それにしたってスヴェン頬に傷がある屈強な男が訪ねてきたら、心臓がいくつあっても足りないだろう。おかげで、ウォンシャー邸では不審者が現れたと大騒ぎだ」


「結果的にあなたと連絡が取れたんだ。文句は後にしてくれ、時間が惜しい」


 リビングの椅子に腰かけるスヴェンに「それもそうだ」と呆れつつウォンシャー公爵はうなづいた。

 そんなふたりを見てシェリーはアルファスと目を合わせると、同時にクスッと笑ってしまう。

怒涛の逃亡の末に邸に逃げてきたため、見つかるかもしれないと緊迫感がぬぐえないでいた。なので、スヴェンとウォンシャー公爵の懐かしいやりとりに安堵したのだ。

 シェリーは椅子に腰かける皆の元へ紅茶を運ぶと、自分も座った。それを見図ったように、ウォンシャー公爵が口を開く。


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