僕の妻は理解不能

「あら、拓翔。
おかえり」

「姉ちゃん、母さんは?」

俺は息切れしつつも
姉に聞いた。


「お母さんなら寝室で寝てるから
そっとしといて」


ホットして
床に座り込んだ。

「で、何があったんだ」

父が少し話すのを躊躇っていた。
でも、重い口を開き話し始めた。

「母さんは病気なんだ。
もう、寿命は短い。

今日は発作が起きた時にこの子が助けてくれたんだ」


若い女の子が座っていた。

「なんだよ。それ。聞いてないよ!!
いつからなんだよ!!

なんで、俺には伝えなかった!」

「落ち着け。拓翔。
もう、1ヶ月くらい前からじゃ。
母さんが拓翔には伝えるなと言うから
ずっと、伝えなかった。」


なんだよ、それ。

そんなに俺は信用ないのか…

すごく寂しくなった。


気付いたら、玄関を飛び出して
地元の公演に向かっていた。


嫌なことがあるといつもここ。

ポツポツと顔に冷たい雨が当たる。
ああ、今日は午後から雨予報だったと思い出す。

ますます強くなり
公演の雨宿り出来るところに座った。



俺は母さんの病気を受け入れることが出来ない。


ある言葉を本でもテレビでも最近よく聞く。
震災が続き、天候は乱れ、殺人事件が起きるこの世の中だからこそなんだろうと思っていた。


『当たり前があることに感謝しよう』

今の俺には
この言葉がナイフのように心に刺さる。


冷たい雨と気温がどんどん
俺を冷静になるようにと追い込んでいる気がした。



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