言い訳~blanc noir~
別れ
「うわー、寒い。ご主人様風邪ひかないでくださいね」
「うん。大丈夫だよ。じゃあ行って来るね」
「いってらっしゃい」
寒の戻りなのか、その日は朝から凍てつくような寒さだった。
引っ越しに向け梱包された段ボールが幾つか玄関に積み上げられている。
玄関から部屋を眺めると、物が急激に減り、ガランとした空間が広がっているせいか、余計に寒々しく思える。
4月を迎え、いよいよ引越しまで10日を切った。
沙織はクロを胸に抱え、玄関先から仕事に出掛ける和樹をいつものように見送っていた。
冬物のスーツを数日前クリーニングに出し、先日購入したばかりのチャコールグレーのスリーピースを今朝初めて着ると、沙織は「かっこいい! ご主人様よく似合ってますっ」と朝からはしゃいでいた。
沙織が選んでくれた光沢のある淡いグレーに細いピンクのストライプ柄のネクタイ。
普段はダークな色味のものばかり使用しているせいか少し気恥ずかしい感じがする。
しかしもう4月を迎え、季節は春だ。
来週は桜が見頃だとテレビで言っていた。
たまにはこういう春らしいネクタイも悪くないか、と思いながらドアを開けると吹き込んできた寒風に眠気が一気に吹き飛んだ。
「冬に逆戻りしたみたいだね」
「ご主人様、待って待って」
沙織が部屋に戻ると毛糸のマフラーを片手に戻ってきた。
和樹の首にくるくると巻きつけながら「これ、私のだからちょっと女の子っぽいけど風邪ひいちゃうといけないから」と沙織が言った。
「あ、沙織の匂いがする」
ふわっとくすぐる沙織のシャンプーの香り。
「いい匂い?」
「うん。沙織の匂い、好きだよ」
そう言うと沙織は弾んだ声でうふふと笑う。
沙織と暮らすようになり、香水はもう使わなくなっていた。沙織の匂いを常に感じていたい、と全て処分していた。
それくらい沙織の匂いが何よりも好きで、愛おしかった。
沙織を抱き寄せそっと口付ける。
いつの頃からか「いってらっしゃいのキス」が当たり前になっていた。
その日もいつもと何も変わらない幸せな朝だった。
「ブログ楽しみにしてるよ。いってきます」
「気を付けてくださいね。いってらっしゃい」
「うん。大丈夫だよ。じゃあ行って来るね」
「いってらっしゃい」
寒の戻りなのか、その日は朝から凍てつくような寒さだった。
引っ越しに向け梱包された段ボールが幾つか玄関に積み上げられている。
玄関から部屋を眺めると、物が急激に減り、ガランとした空間が広がっているせいか、余計に寒々しく思える。
4月を迎え、いよいよ引越しまで10日を切った。
沙織はクロを胸に抱え、玄関先から仕事に出掛ける和樹をいつものように見送っていた。
冬物のスーツを数日前クリーニングに出し、先日購入したばかりのチャコールグレーのスリーピースを今朝初めて着ると、沙織は「かっこいい! ご主人様よく似合ってますっ」と朝からはしゃいでいた。
沙織が選んでくれた光沢のある淡いグレーに細いピンクのストライプ柄のネクタイ。
普段はダークな色味のものばかり使用しているせいか少し気恥ずかしい感じがする。
しかしもう4月を迎え、季節は春だ。
来週は桜が見頃だとテレビで言っていた。
たまにはこういう春らしいネクタイも悪くないか、と思いながらドアを開けると吹き込んできた寒風に眠気が一気に吹き飛んだ。
「冬に逆戻りしたみたいだね」
「ご主人様、待って待って」
沙織が部屋に戻ると毛糸のマフラーを片手に戻ってきた。
和樹の首にくるくると巻きつけながら「これ、私のだからちょっと女の子っぽいけど風邪ひいちゃうといけないから」と沙織が言った。
「あ、沙織の匂いがする」
ふわっとくすぐる沙織のシャンプーの香り。
「いい匂い?」
「うん。沙織の匂い、好きだよ」
そう言うと沙織は弾んだ声でうふふと笑う。
沙織と暮らすようになり、香水はもう使わなくなっていた。沙織の匂いを常に感じていたい、と全て処分していた。
それくらい沙織の匂いが何よりも好きで、愛おしかった。
沙織を抱き寄せそっと口付ける。
いつの頃からか「いってらっしゃいのキス」が当たり前になっていた。
その日もいつもと何も変わらない幸せな朝だった。
「ブログ楽しみにしてるよ。いってきます」
「気を付けてくださいね。いってらっしゃい」