言い訳~blanc noir~
「奥さんか?」
「あ、はい」
沙織を奥さんと呼ぶにはまだ少し早いが、そう呼ばれる事をどこか嬉しく感じていた。
「椎名が結婚かぁ。女性陣、泣く連中が多いだろうな」
「いえ、そんな事はないかと」
「うちの娘の美香も大学に行き出して、最近どうも彼氏が出来たようなんだよ」
佐原には確か美香という18か19の一人娘がいる。
娘が子供の頃、一度見掛けた事があったが佐原にはあまり似ておらず、佐原の妻にそっくりだったのを薄っすらと思い出した。
「お嬢さんに彼氏ですか。もう時期お嫁に行く日がやってきますね」
「ああ、さっさと嫁でも何でも行ってくれたらいいんだがな。何にも取り得がないぼーっとした娘だから先が心配だよ」
佐原は愚痴を零していたが、その目は父親の目をしていた。
「お、もう2時か。そろそろ会議が始まるな」
佐原が腕時計を見ながら言う。佐原と和樹は6階の会議室に向かった。
支店から新しくやって来た部長の挨拶に始まり、あとは、各部署による今期の方針を受けてのミーティングだった。
2時からスタートした会議から2時間半が経過したところで、一度休憩を挟む事になり、和樹は自販機で缶コーヒーを購入した。
「椎名さん」
背後から声を掛けられ振り返ると古賀がにこやかな笑顔で立っていた。
「おめでとうございます」
「ああ。ありがとう。でもこのやり取り、今日何度目だろう」
和樹が笑う。
古賀と立ち話をしているときだった。スーツの内ポケットで携帯電話が震えていることに気が付いた。
「電話ですか?」
「ああ。誰だろう」
電話帳登録されていない、知らない番号からの着信だった。
和樹は訝しげな様子で電話に出る。
「もしもし」
「―――椎名和樹さんの電話番号でお間違いございませんか?」
「あ、はい」
沙織を奥さんと呼ぶにはまだ少し早いが、そう呼ばれる事をどこか嬉しく感じていた。
「椎名が結婚かぁ。女性陣、泣く連中が多いだろうな」
「いえ、そんな事はないかと」
「うちの娘の美香も大学に行き出して、最近どうも彼氏が出来たようなんだよ」
佐原には確か美香という18か19の一人娘がいる。
娘が子供の頃、一度見掛けた事があったが佐原にはあまり似ておらず、佐原の妻にそっくりだったのを薄っすらと思い出した。
「お嬢さんに彼氏ですか。もう時期お嫁に行く日がやってきますね」
「ああ、さっさと嫁でも何でも行ってくれたらいいんだがな。何にも取り得がないぼーっとした娘だから先が心配だよ」
佐原は愚痴を零していたが、その目は父親の目をしていた。
「お、もう2時か。そろそろ会議が始まるな」
佐原が腕時計を見ながら言う。佐原と和樹は6階の会議室に向かった。
支店から新しくやって来た部長の挨拶に始まり、あとは、各部署による今期の方針を受けてのミーティングだった。
2時からスタートした会議から2時間半が経過したところで、一度休憩を挟む事になり、和樹は自販機で缶コーヒーを購入した。
「椎名さん」
背後から声を掛けられ振り返ると古賀がにこやかな笑顔で立っていた。
「おめでとうございます」
「ああ。ありがとう。でもこのやり取り、今日何度目だろう」
和樹が笑う。
古賀と立ち話をしているときだった。スーツの内ポケットで携帯電話が震えていることに気が付いた。
「電話ですか?」
「ああ。誰だろう」
電話帳登録されていない、知らない番号からの着信だった。
和樹は訝しげな様子で電話に出る。
「もしもし」
「―――椎名和樹さんの電話番号でお間違いございませんか?」