言い訳~blanc noir~
 それから1年数ヶ月。

 美樹に対しての愛情は増える事もなければ減る事もない。


 これが“好き”という感情なのか和樹自身よくわからなかった。


 ただ、知ってしまった。


 本気で誰かを思う事、それはとても苦しくて、どれだけ求めても求め足りないほどその人の事が愛おしくて、切なくて、気が狂いそうになる。


―――広瀬 沙織。

 多分これから先、これ以上の思いを抱く事はないだろう。

 そう心から思った相手は皮肉な事に他の男の妻だった。


 出会った時期が遅過ぎたと悔やんだ事もあった。

 どうして俺じゃない他の男の元へ帰るんだと嘆いた事もあった。


 今思えば、そんな感情がちっぽけな事のように感じる。


“俺が幸せにしてあげたかった”


 その和樹の思いは一生叶う事はない。


 沙織はもうこの世にはいないのだから。
< 11 / 200 >

この作品をシェア

pagetop