言い訳~blanc noir~
「―――次は椎名さんと美樹だね」


 美樹の隣に座る智沙がカシスソーダを口にしながらぼそっと呟いた。


「椎名さん、そうなの?」


 和樹と智沙の間のソファに腰かけた美樹がおどけたような表情で和樹の顔を覗き込んだ。


「え?」


「え? じゃないでしょ。ねえ、絵里子の次は私と椎名さんの番?」


 美樹の問いかけが結婚を意味している事くらい嫌でもわかる。

 わかるが、笑顔で「うん」と答えられず「どうかな」と曖昧な返事でかわし、和樹はビアグラスに口をつけた。


「なにその返事! ちょっと智沙どう思う?」


「狡いと思いまーす」


「ほら! 椎名さん。その返事狡いって智沙も言ってるじゃない!」


 まいったな。

 和樹はそう心で呟いた。


 この日は結婚式に和樹と美樹は出席していた。


 美樹の大学時代からの友人の絵里子と、和樹の後輩、堀田の結婚式。

 堀田は例の合コンに誘ってきたあの後輩だ。

 あの合コンで出会った絵里子と堀田はしばらく友人関係が続き、正式に恋人関係になったと報告を受けたのは5ヶ月前だった。

 交際半年足らず。まさかのスピード結婚に皆驚きを隠せなかった。

 しかし美樹は驚くというよりはそれを羨ましく思っていた。披露宴の間、終始「いいな」「私もドレス着たいな」と呟いていた。


 そして二次会の席でも美樹の話題は結婚に関してだ。


 出席している連中はほぼ全員酔いが回っているのか貸切りにしたバーの店内はお祭り騒ぎになっている。

 普段であればこのような騒々しい雰囲気は和樹の苦手とするところだが、この日はお祭り騒ぎに救われた。

 重たい話題や曖昧な返事を馬鹿騒ぎする連中が、都合良く何度でもかき乱してくれる。
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