言い訳~blanc noir~
 文字を入力させるたび和樹の視界が涙で歪む。

 自分で打っている文字でしかない。

 それなのにそれがまるで沙織が書き込んでいるかのように思えた。

 沙織が和樹の背後に立ち、ぴったりと寄り添っているような気すらした。

 この世界の中で沙織は生きているんだ。

 沙織はここにいるんだ―――



「沙織、こんなところにいたんだね」

 しゃくり上げながら声に出すと涙が頬をつたい首筋を流れる。

 この世界の中だけは痛みも苦しみも悲しみもない、優しくて穏やかな空気が流れているようだった。

 その30分後、毛玉からコメントが書き込まれていた。


―――そうだったんですね!
ずっと心配していました。

 ご主人様ともうすぐご結婚なんですよね?

 幸せいっぱいですね^^


 毛玉



―――はい!
毎日幸せです。

6月に入籍なんです。
楽しみです。

さおりちゃん



 せめてこの世界の中だけでいい。

 沙織を幸せにしてあげたい。

 そして予定通り6月に沙織を俺の妻にしたい。


 この日から、和樹は定期的に“さおりちゃん”としてブログを更新させるようになった。

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