言い訳~blanc noir~
罪と罰
 丸和銀行4階。

 オフィスの扉を開けるとそれまで和やかだった雰囲気が一変、しんと静まった。

 いつもより40分ほど早く出勤したが既に20名近い行員たちがオフィス内にいた。

 皆、和樹が親しくしている面々だった。和樹の復帰に伴い、笑顔で迎えようと計画を立てていたと後に知った。

 しかし実際和樹の姿を目の当りにすると皆、表情が固まり、笑っている人間など一人もいない。

 久しぶりの職場、そして、久しぶりに見る同僚や後輩。

 この1ヶ月、マンションに引きこもった生活をしていたため仲間たちの姿に圧倒されそうになる。

 その場にいた約20名が扉の前に立つ和樹を神妙な表情で見つめる。


「おはようございます。この度はご心配、および、ご迷惑をおかけいたしまして申し訳ございませんでした。またたくさんのお心遣い、ご配慮を頂き心から感謝しております。本日から心機一転、仕事と向き合ってまいりたいと思いますのでどうぞよろしくお願いいたします」


 和樹が頭を下げるとどこかから鼻をすする音と共に大きな拍手が起こった。


「椎名さん、お帰りなさい!!」


 鼻をすする音は後輩の山下だったようだ。泣きながら立ち上がると腫れ上がりそうなほど手を叩いていた。


「山下、何で泣いてるんだよ」


 和樹が笑うと山下は涙を拭いながら握手を求めてきた。同僚が一斉に和樹の元に駆け寄り、皆、口々に「お帰りなさい」と和樹を囲む。和樹も自然に目元が緩む。

 その様子を笑みを浮かべながら夏海が見ていた。

 その視線と和樹の視線がほんのわずかに交差したが、和樹はすぐに目を伏せ自分の席へと歩き出した。


 その後出向いてきた部長を始めとする上司の元に伺い深々と頭を下げ、挨拶をすると、ほぼ全員から「無理はするなよ」と気遣われた。

 どうやら見た目にはっきりとわかるほどやつれた顔をしているようだ。


「椎名、もう大丈夫なのか?」

 昼過ぎ、喫煙所に入るとすぐに佐原が入って来た。

「その節はありがとうございました」

 頭を下げると佐原は「いやいや」と言いながら煙草に火をつけた。

「椎名、随分と痩せたな。まだ傷は癒えてないだろうが……椎名はまだ若いんだ。頑張ろうな」

「はい」


 佐原から背中をどんっと叩かれ、和樹は頷いた。
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