言い訳~blanc noir~
約1ヶ月ぶりに職場復帰を果たした。
沙織が事故に巻き込まれた丸和銀行前の横断歩道に出勤前小さな花束を置きに行くと誰が置いたかはわからないが既に花やジュースが置かれていた。
「沙織、今日から仕事だからね」
小さな花束を供え、手を併せた和樹は声に出して話しかける。
まだ事故現場を見るのは傷を抉られるように痛い。出来れば視界に入れたくない。だが、そんな事を言っていては仕事にならない。事故現場は丸和銀行の目の前なのだから。
もう慣れるしかないんだ、と自分を洗脳するように和樹は言い聞かせた。
この日はとにかく仕事に専念し遅れを取り戻す事だけに集中した。
―――午後5時30分。
「椎名さん」
デスクに座る和樹の背後に夏海が立っていた。顔を上げると夏海が口元だけで笑う。
「今夜、何時に行ったらいいですか?」
和樹が辺りを見回し「ちょっと会議室に来て」と小声で耳打ちした。
殺風景な会議室に夏海を入れ、内側から鍵を掛けた。意を決したような面持ちの和樹は、夏海を真っ直ぐに見つめる。
「どうしたんですか? そんな真剣な顔して」
「古賀さん、本当に申し訳なかった。あの日、俺、どうかしてたんだ」
頭を下げた。
夏海は顎の辺りまで伸ばした長い前髪を右手で掻き上げたまま和樹を見つめていた。
「椎名さん。そんなに思い詰めるような事じゃないでしょ? 私たち大人なんだし。椎名さんってもっとドライなタイプだと思ってたけど、意外と真面目なんですね」
「ああ。自分でもそう思うよ。沙織の四十九日さえまだ迎えていないのに、こんな事をした自分を許せないんだ。古賀さんに対しても、沙織に対しても申し訳ないとしか言いようがない。本当に申し訳なかった」
「でも、私は椎名さんが好きです」
「気持ちは嬉しいけど今は誰かと付き合うとか、そういうのは考えられないんだ」
「わかってます。私、沙織さんと張り合おうなんて思ってません。ただ椎名さんの役に立てたらそれだけでいいんです」
和樹が目を閉じ天井を見上げ小さく息を吐いた。
「古賀さんには感謝してるよ。だけどもう大丈夫だから。これからは今まで通り、仕事仲間としてやっていきたい」
「……そんなに迷惑なんですか、私?」
沙織が事故に巻き込まれた丸和銀行前の横断歩道に出勤前小さな花束を置きに行くと誰が置いたかはわからないが既に花やジュースが置かれていた。
「沙織、今日から仕事だからね」
小さな花束を供え、手を併せた和樹は声に出して話しかける。
まだ事故現場を見るのは傷を抉られるように痛い。出来れば視界に入れたくない。だが、そんな事を言っていては仕事にならない。事故現場は丸和銀行の目の前なのだから。
もう慣れるしかないんだ、と自分を洗脳するように和樹は言い聞かせた。
この日はとにかく仕事に専念し遅れを取り戻す事だけに集中した。
―――午後5時30分。
「椎名さん」
デスクに座る和樹の背後に夏海が立っていた。顔を上げると夏海が口元だけで笑う。
「今夜、何時に行ったらいいですか?」
和樹が辺りを見回し「ちょっと会議室に来て」と小声で耳打ちした。
殺風景な会議室に夏海を入れ、内側から鍵を掛けた。意を決したような面持ちの和樹は、夏海を真っ直ぐに見つめる。
「どうしたんですか? そんな真剣な顔して」
「古賀さん、本当に申し訳なかった。あの日、俺、どうかしてたんだ」
頭を下げた。
夏海は顎の辺りまで伸ばした長い前髪を右手で掻き上げたまま和樹を見つめていた。
「椎名さん。そんなに思い詰めるような事じゃないでしょ? 私たち大人なんだし。椎名さんってもっとドライなタイプだと思ってたけど、意外と真面目なんですね」
「ああ。自分でもそう思うよ。沙織の四十九日さえまだ迎えていないのに、こんな事をした自分を許せないんだ。古賀さんに対しても、沙織に対しても申し訳ないとしか言いようがない。本当に申し訳なかった」
「でも、私は椎名さんが好きです」
「気持ちは嬉しいけど今は誰かと付き合うとか、そういうのは考えられないんだ」
「わかってます。私、沙織さんと張り合おうなんて思ってません。ただ椎名さんの役に立てたらそれだけでいいんです」
和樹が目を閉じ天井を見上げ小さく息を吐いた。
「古賀さんには感謝してるよ。だけどもう大丈夫だから。これからは今まで通り、仕事仲間としてやっていきたい」
「……そんなに迷惑なんですか、私?」