言い訳~blanc noir~
「椎名さん、美樹。飲んでる?」


 背中が大きく開いたパープルのイブニングドレスに身を包んだ絵里子が、ワイングラスを片手に美樹と和樹が座るソファ席にやってきた。

 先ほどまで美樹の隣に座っていた智沙はいつの間にか席を移動し、和樹の職場の連中と何やらゲームのような事をして盛り上がっていた。


「もう絵里子、聞いてよ」


 和樹は美樹に見えないように溜息をついた。

 またその話題か……。


「どうしたの?」


「椎名さん、私と結婚したくないみたい」


「ええ! 椎名さん、そうなの?」


 絵里子が目を真ん丸にさせ二人の間に腰をおろした。


「いや、結婚したくないなんて一言も言ってないよ」


「だってちゃんと返事してくれないじゃない? する気ないんだってそりゃ思うわよ。ね、絵理子?」


「今は仕事が忙しいからもう少し待って欲しいんだ。それに美樹ちゃんも仕事大変な時期だろ?」


「私の仕事なんて結婚しても、してなくても関係ないわよ。そうやって都合のいい言い訳しないでよ」


 和樹が困ったように天井を見上げた。


「まあまあ。美樹、落ち着いて。慌て過ぎよ」


「付き合い出して半年で結婚した絵里子から言われたくないわ」


 美樹がふて腐れたようにジントニックを飲み干す。その席だけ冷ややかな空気が流れ出した。
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