言い訳~blanc noir~
「そうじゃないよ。ただ、何かの間違いで関係を持った男女が仕事以外で会うのはおかしいだろ? 勝手な話だと思うけど、古賀さんに対して恋愛感情はないし、古賀さんを性欲のために抱きたいなんて思わない。だから役に立つとか立たないとか、そういう言葉は言わないで欲しい」

 すると夏海がくすっと小さく笑った。

「椎名さん。わかりました。でも私が椎名さんを好きなのは仕方ないでしょ? 嫌いになれって言われてもなれないし。思うだけならいいですよね?」

「気持ちに応える事は出来ないけどね」

「わかってますよ。じゃあ、お先に失礼します」

 和樹を残し、夏海は会議室を後にした。


 口から溜息が溢れた。

 どうしようもない苛立ちと後悔が波となり和樹を目がけて押し寄せる。自ら犯した罪は夏海を傷つけ、和樹自身の傷口をも抉るようだった。

 なぜあの夜、夏海を抱いたのか。明確な理由があったわけではない。ただ、人の温もりを欲していた、それだけだった。

 だが温もりを得るどころかやり場のない後悔だけが残り、夏海との関係も不穏が付きまとう。夏海からの好意も今となっては負担でしかない。

 全ては自業自得だ。

 四角い窓の向こうに横断歩道が見えた。

 1ヶ月前、あんな事故などなかったかのように人が歩き、車が行き交い、ごくごく普通の日常がそこに広がっている。


 時は確実に過ぎていた。

 和樹だけを残して。
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