言い訳~blanc noir~
 夏海と関係をもった日から数日は自責の念に駆られ、ブログ更新はおろか沙織の部屋に入る事さえも出来なかった。

 クロから見つめられれば責められているような気になり、「ごめんな」と謝罪ばかり繰り返していた。

 しかし、賢いクロは自分で飛び上がり、ドアノブを勝手に開けるという技をいつの間にか習得していた。

 沙織の匂いが残っているからなのか、沙織の魂がそこにいるのか、クロはいつも沙織の部屋に置かれたベッドの上で気持ちよさそうに微睡み日向ぼっこをしていた。

 恐る恐る沙織の部屋に入り、アールグレイを遺影の前に置く。

「沙織。もう知ってると思うけど浮気してしまいました。ごめんなさい」

 遺影に向かって土下座する。

 笑顔の沙織が般若のような形相に変わっているのではと少々びくつきながら顔を上げたが、沙織は相変わらずウェディングドレス姿で笑っていた。

「クロ、沙織怒ってるのかな?」

 ベッドの上のクロに話し掛けるとあくびをしながら毛づくろいを始めた。和樹の浮気なんかどうでもいいといった様子で見向きもしない。

 そして今日。

 久しぶりにブログサイトを開くと毛玉からコメントが5件書き込まれていた。

 どのコメントも相変わらず猫の話題と“さおりちゃんとご主人様”の結婚に関する、明るく和やかなものばかりだった。

 コメントに返事をし、新しい記事を更新させた。



『ジューンブライド』

6月の花嫁さんは幸せになれるって聞きました。

もうすぐ6月!
私も幸せになります。
楽しみです。





 この記事にクロの写真を添えて更新させた。

 6月の前に、今日は沙織の四十九日だった。

 本来であれば納骨をしなければならないが、結婚していない沙織の遺骨を椎名家の墓に納骨するのは反対だと親族に咎められてしまった。

 そのため沙織と二人だけで入れる墓を購入しようかと考えたが、子供もいないため後に無縁仏になる可能性も高く、銀行と付き合いのある寺院の納骨堂に沙織の遺骨を納める事にした。
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