言い訳~blanc noir~
「生まれ変わり?」

 突拍子もなく投げられた質問に和樹は訝しげに首を捻った。

「生まれ変わりがあるなら、沙織さんが犬だって猫だっていいって。そう言ったでしょ?」

「ああ。覚えてるよ」

 もしも本当に生まれ変わりがあるなら。沙織にもう一度会いたい。

 この思いだけは毎日のように持ち続けている。例えそれがどのような形であろうと、沙織にもう一度会えるなら俺は何だってする。


 和樹は夏海を見つめた。

「それがどうしたの」

 身を乗り出した夏海が耳元で囁いた。

「沙織さんに会えますよ」


 言葉がうまく頭の中に伝達されず、夏海が言った言葉を頭の中で繰り返した。


―――沙織さんに会えますよ


 確かに夏海はそう言った。その言葉の意味がわかると和樹の表情が険しく歪む。


「いい加減にしてくれないか」

「どうして怒るんですか? せっかくいいお知らせ持って来たのに」

「何がいいお知らせなんだ。俺をからかってるだけだろ? 悪いけどそんなくだらない話に付き合うつもりないから」

 伝票に手を伸ばすと夏海が手を重ねた。

「待ってください。私の話を全部聞いてから帰ってもらえますか?」

 溜息をつき苛立った表情で夏海を見つめた。

「椎名さん、殺人っていけない事ですよね? 命って大切ですもんね。沙織さんを失った椎名さんなら絶対に命の大切さがわかると思うんです」

「……何が言いたいんだよ」


 夏海が上目使いで和樹を見つめる。そして意味ありげにふっと笑みを浮かべると静かに口を開いた。


「―――私、赤ちゃんできたんです」
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