言い訳~blanc noir~
 下世話な話だがたった一回のセックスでそんな事があるのだろうか。

 可能性が0だとは言いきれない事は十分わかっているつもりだ。

 しかしこれまで過去に関係があった女からそんな話を切り出された事もなければ、沙織とは避妊さえしていなかった。それでも子供を授かる事はなかったが、もし沙織との間に子供がいたなら、どれほど幸せだっただろう。

 夏海を抱いた日、確かに避妊していなかった事を和樹は思い出した。

 愛した女との間に子供を授かる事はなく、後悔しかないたった一度の事故のような行為で子供を授かる。それをどう受け止めればいいのだろうか。

「沙織さんが私のお腹に来てくれたんだと思うんですよね。四十九日が過ぎた今日、妊娠がわかったんです」

「病院は、行ったのか……?」

「検査薬使いました。こんな場所で出すのはちょっとどうかと思うけど」そう言いながら夏海はバッグの中から透明のビニール袋に入れられた細い棒状のスティックを取り出した。

「この二つの小窓があるでしょ? ラインが1本なら陰性、2本なら陽性。ほら、これ2本あるでしょ?」

 目を向けると確かに小窓にラインが2本浮き出ていた。

「生理が遅れて一週間だからまだ初期だけど。沙織さんが帰って来てくれたとしか思えないんです、私。こんな奇跡みたいな事って普通ないですよね?」

「ごめん。今はそんなふうに思えない」

 すると夏海の顔からすっと笑みが消え、目が鋭く光った。

「まさか産むななんて言いませんよね?」
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