言い訳~blanc noir~
「―――考える時間が欲しい。頭が混乱していてうまくまとまらないんだ」
「考えるって何を考えるんですか? 私、産みますよ。殺人なんてしたくないし」
「殺人……?」
「堕胎手術ってどんな事するか知ってます? 生きたい赤ちゃんの命を無理やり殺す、」
「やめてくれ!!」
これ以上は聞きたくなかった。言葉を遮るように和樹が声を上げると、窓際に座っていたカップルが驚いたようにこちらを振り返った。
沙織の最期の姿が目に浮かび、冷や汗が背中をつたう。手が震え、心臓を圧迫されたように激しい動悸が和樹を襲った。
血の気が引きみるみる青ざめてゆく和樹を見て、夏海が畳みかけるように言った。
「殺人なんてそんな残酷な事、私は絶対にしたくありませんから。椎名さんだってそんな事したくないでしょ。椎名さん、男として責任取ってくれますよね?」
「責任? 古賀さんは俺に何を望んでるんだ。認知して養育費を支払えって事か? そういう事ならきちんと責任を取るよ。公正証書の作成があるから弁護士に、」
え? と意外そうな顔で夏海が首を傾げた。
「何言ってるんですか? この授かった赤ちゃんに父親がいないなんてかわいそうじゃないですか。沙織さん、家族いなかったんですよね? そんな思いをこの子にさせるつもりですか? この子、沙織さんの生まれ変わりなんですよ」
もう何も言葉が出なかった。否定も肯定も何も出来ず、夏海に向ける言葉そのものが見つからなかった。
「椎名さん、私と結婚してください」
「結婚……?」
「ええ。それもなるべく早くに。未婚の状態で子供ができたなんて、うちの銀行の連中に知れたら何を言われるかわかりませんよ。デキ婚に否定的な人多いし。それに、沙織さんがまだ亡くなって日が経っていないのに未婚で子供ができたなんて知れ渡ったら銀行内での椎名さんの立場……悪くなりますよ?」
夏海がアイスココアを口にした。
「私、すぐに辞表出しますから。その後私と結婚してください。赤ちゃんは結婚後できたって事にしておけばいいし、出産時期は早産だったとか何とか言えばばれないでしょう?」
畳み掛けるような言葉の連続に和樹は俯いたままだった。
しばらくの沈黙の後和樹が顔を上げた。
「古賀さん。俺の気持ちが古賀さんになくても、俺が沙織の事を忘れられなくても……それでも俺と結婚したいのか」
「はい。私の事を愛してもらえるように努力します。だから椎名さんも私を愛せるように努力してくださいね」
「それで古賀さんは幸せなのか」
「私は幸せですよ。椎名さんの事ずっと好きだったし。沙織さんの生まれ変わりを私が産めるなんて光栄ですけど」
和樹は唇を噛みしめ、そして、呟くように言った。
「わかった」
「考えるって何を考えるんですか? 私、産みますよ。殺人なんてしたくないし」
「殺人……?」
「堕胎手術ってどんな事するか知ってます? 生きたい赤ちゃんの命を無理やり殺す、」
「やめてくれ!!」
これ以上は聞きたくなかった。言葉を遮るように和樹が声を上げると、窓際に座っていたカップルが驚いたようにこちらを振り返った。
沙織の最期の姿が目に浮かび、冷や汗が背中をつたう。手が震え、心臓を圧迫されたように激しい動悸が和樹を襲った。
血の気が引きみるみる青ざめてゆく和樹を見て、夏海が畳みかけるように言った。
「殺人なんてそんな残酷な事、私は絶対にしたくありませんから。椎名さんだってそんな事したくないでしょ。椎名さん、男として責任取ってくれますよね?」
「責任? 古賀さんは俺に何を望んでるんだ。認知して養育費を支払えって事か? そういう事ならきちんと責任を取るよ。公正証書の作成があるから弁護士に、」
え? と意外そうな顔で夏海が首を傾げた。
「何言ってるんですか? この授かった赤ちゃんに父親がいないなんてかわいそうじゃないですか。沙織さん、家族いなかったんですよね? そんな思いをこの子にさせるつもりですか? この子、沙織さんの生まれ変わりなんですよ」
もう何も言葉が出なかった。否定も肯定も何も出来ず、夏海に向ける言葉そのものが見つからなかった。
「椎名さん、私と結婚してください」
「結婚……?」
「ええ。それもなるべく早くに。未婚の状態で子供ができたなんて、うちの銀行の連中に知れたら何を言われるかわかりませんよ。デキ婚に否定的な人多いし。それに、沙織さんがまだ亡くなって日が経っていないのに未婚で子供ができたなんて知れ渡ったら銀行内での椎名さんの立場……悪くなりますよ?」
夏海がアイスココアを口にした。
「私、すぐに辞表出しますから。その後私と結婚してください。赤ちゃんは結婚後できたって事にしておけばいいし、出産時期は早産だったとか何とか言えばばれないでしょう?」
畳み掛けるような言葉の連続に和樹は俯いたままだった。
しばらくの沈黙の後和樹が顔を上げた。
「古賀さん。俺の気持ちが古賀さんになくても、俺が沙織の事を忘れられなくても……それでも俺と結婚したいのか」
「はい。私の事を愛してもらえるように努力します。だから椎名さんも私を愛せるように努力してくださいね」
「それで古賀さんは幸せなのか」
「私は幸せですよ。椎名さんの事ずっと好きだったし。沙織さんの生まれ変わりを私が産めるなんて光栄ですけど」
和樹は唇を噛みしめ、そして、呟くように言った。
「わかった」