言い訳~blanc noir~
 産婦人科の駐車場。和樹は車の中で夏海を待っていた。

 夏海に妊娠していると告げられた日から3日が過ぎた。その日はあまりにも突然の話だったため何も考えられずどうやって帰宅したかさえも覚えていない。

 頭の中が真っ白になるとはこういう状態か。

 仏壇の前に腰をおろしぼんやりと沙織の遺影を眺めていた。

 翌日出勤すると、夏海は体調不良との事で数日休むと朝一番で主任に連絡があったそうだ。

 正直ほっとした。夏海に対してこれまでと同じように普通に振る舞える自信がなかったからだ。

 しかし夕方が近付いた頃、ふと夏海が病院にはまだ行っていないと口にしていたのを思い出した。

 妊娠検査薬は使用方法さえ間違わなければほぼ100%に近いとネットに書かれていた。しかしそれでも産婦人科を受診し確定診断を受けなければならない。

 その夜夏海に電話を掛け「明日一緒に産婦人科に行こう」と伝えた。しかし夏海は明日は用事があると言い、その翌日なら、との事で今日産婦人科にやって来た。

 しかし院内は出産間近のお腹の大きな女性、婦人科検診に訪れている女性患者でごった返していた。

 腕がいいと評判の産婦人科らしく設置された椅子やソファも埋め尽くされており、壁にもたれた立ち姿で診察を待っている女性もいた。

 そこに男性の姿は見当たらず、付き添いの夫と思われる男性は皆、車の中で待機しているようだった。

「椎名さん、車で待っててください」

「いや、俺も先生の話聞きたいから」

「あの、診察って何するかわかってるんですか? 下着を脱いで足を広げないといけないのに……婦人科って凄くデリケートな空間だから遠慮してもらえませんか? 他の患者さんの迷惑にもなるし男性は車で待つのが常識ですよ」

 夏海は不快そうに眉を寄せた。

「ごめん。産婦人科ってどういうところなのか知らなくて。何か妊娠を証明できるようなものってもらえるのかな?」

「……私、疑われてるんですね。ま、そりゃそうですよね。たった一回で妊娠なんて普通じゃあり得ないだろうし」

「ごめん。そういう意味じゃないんだ」

 夏海は溜息をつく。

「わかりました。診断書もらってきますよ。それで納得できるんでしょ?」

「不愉快な事言って悪かった。車で待ってるよ」
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