言い訳~blanc noir~
車の中で夏海の戻りを待つ事にした。
その間デジカメに収めた沙織の写真を眺めていた。
キッチンに立つ沙織の何気ない後姿や、大好きだったチーズケーキを口にしている姿、嫌がるクロを強引に抱え上げ頬にキスする姿、眠っている和樹の隣に寄り添い知らない間に沙織が撮影したもの。
そして遺影にもなっているウェディングドレス姿の沙織。
「沙織。本当に戻ってきてくれたのか? 俺の子供として戻って来てくれたのか?」
すると産婦人科の扉から夏海が出て来る姿が見え、和樹は慌ててデジカメをバッグの中にしまった。
「お待たせしました」
「どうだった?」
「私、喉乾いたからちょっとそこのカフェにお茶でも飲みに行きませんか?」
はっきり言えばカフェでお茶を飲むような気ではなかった。が、今の夏海に何を言ったところで言い返され、空気が澱むのは精神的にきついものがある。
産婦人科の目の前にあるカフェに夏海と向かった。
「あの産婦人科っていつもあんな感じなのかな。もう次から次に人が入ってきて、番号札まで配ってましたよ。先生も腕がいいって評判だから、出産はあの病院にしようかな」
「そうなんだ。それで、」
夏海が呆れたように笑う。
「椎名さん、そんな話どうでもいいから結果はどうなんだ? って丸わかりな顔してますね」
嫌味っぽく夏海が言うと、バッグの中から封筒を取り出し和樹の眼前で開封した。
「はい。これが診断書です。あとエコー写真」
「診断書ってこれだけしか書いてないの?」
“内診による診察の結果妊娠反応が認められる”
「椎名さん。知らないと思いますけど安定期に入るまではこういうの一般的に出してくれないんですよ? 流産の危険性だってあるんだし。母子手帳だってすぐにはくれませんよ。ネットで調べてもらって結構ですけど。普通、妊娠した診断書なんて産休取る人くらいしか必要ないものでしょ? 先生に無理言って書いてもらったんですから、私」
男の和樹にとって当然、産婦人科とは無縁だった。何もかもが初めて見聞きする事ばかりで、和樹は戸惑い気味に夏海に謝罪した。
「この白黒の写真は?」
「これがエコーの写真です。まだ小さいけどここに袋あるでしょ? これが赤ちゃん。沙織さんですよ」
和樹は小さな白黒写真を手に取り眺める。しかし砂嵐のような画像に写る小さな袋を沙織だと言われても何の実感もわかなかった。
が、ここまでの“証拠”を揃えられてしまえば事実として受け入れるしかなかった。
写真を返した和樹は顔を上げた。
「―――嫌な思いをさせて悪かった」
その間デジカメに収めた沙織の写真を眺めていた。
キッチンに立つ沙織の何気ない後姿や、大好きだったチーズケーキを口にしている姿、嫌がるクロを強引に抱え上げ頬にキスする姿、眠っている和樹の隣に寄り添い知らない間に沙織が撮影したもの。
そして遺影にもなっているウェディングドレス姿の沙織。
「沙織。本当に戻ってきてくれたのか? 俺の子供として戻って来てくれたのか?」
すると産婦人科の扉から夏海が出て来る姿が見え、和樹は慌ててデジカメをバッグの中にしまった。
「お待たせしました」
「どうだった?」
「私、喉乾いたからちょっとそこのカフェにお茶でも飲みに行きませんか?」
はっきり言えばカフェでお茶を飲むような気ではなかった。が、今の夏海に何を言ったところで言い返され、空気が澱むのは精神的にきついものがある。
産婦人科の目の前にあるカフェに夏海と向かった。
「あの産婦人科っていつもあんな感じなのかな。もう次から次に人が入ってきて、番号札まで配ってましたよ。先生も腕がいいって評判だから、出産はあの病院にしようかな」
「そうなんだ。それで、」
夏海が呆れたように笑う。
「椎名さん、そんな話どうでもいいから結果はどうなんだ? って丸わかりな顔してますね」
嫌味っぽく夏海が言うと、バッグの中から封筒を取り出し和樹の眼前で開封した。
「はい。これが診断書です。あとエコー写真」
「診断書ってこれだけしか書いてないの?」
“内診による診察の結果妊娠反応が認められる”
「椎名さん。知らないと思いますけど安定期に入るまではこういうの一般的に出してくれないんですよ? 流産の危険性だってあるんだし。母子手帳だってすぐにはくれませんよ。ネットで調べてもらって結構ですけど。普通、妊娠した診断書なんて産休取る人くらいしか必要ないものでしょ? 先生に無理言って書いてもらったんですから、私」
男の和樹にとって当然、産婦人科とは無縁だった。何もかもが初めて見聞きする事ばかりで、和樹は戸惑い気味に夏海に謝罪した。
「この白黒の写真は?」
「これがエコーの写真です。まだ小さいけどここに袋あるでしょ? これが赤ちゃん。沙織さんですよ」
和樹は小さな白黒写真を手に取り眺める。しかし砂嵐のような画像に写る小さな袋を沙織だと言われても何の実感もわかなかった。
が、ここまでの“証拠”を揃えられてしまえば事実として受け入れるしかなかった。
写真を返した和樹は顔を上げた。
「―――嫌な思いをさせて悪かった」