言い訳~blanc noir~
12年ぶりの再会 Ⅳ
「なにそれ。そんな様子のおかしな女と本当に結婚したの!?」

 大きな瞳を白黒させた美樹は呆れ気味に声をあげた。

「様子がおかしい女って凄い言い方だね。一応、俺の元妻なんだけど」

 でもさぁ、と美樹はしばらくの間不満げだった。「まあ、いいわ」と、美樹は右手で頬杖をつき、まじまじと和樹の顔を見つめた。

「ん?」

「でも沙織さんが亡くなってまだ日が浅いのに、いきなり結婚だなんて職場での印象って最悪だったんじゃないの?」

 どこか懐かしむような目付きで和樹は浅く笑う。

「そうだね。針の上のむしろだったよ」

「そうよね。でも、それだけ最悪な状況からどうやって信用回復できたの?」

「まあ、色々とあってね。けど俺の立場がいくら回復できても、反比例するように俺はもう誰の事も信じられなくなったよ」

「どういう意味?」

「そのままだよ。俺はもう誰の事も信じないし、一切何も感じない、思わない、求めない。沙織が死んだ時に俺も死んだんだと思うよ。多分ね」

「しっかり生きてるじゃない」

「肉体だけ何かの間違いでこの世に残ったけど魂は死んでるんじゃないかな。裏切る事も騙す事も何も思わない。別に俺、いつ死んでも構わないって思ってるから」

 美樹は怪訝な表情を浮かべ、和樹を見つめた。穏やかに淡々と語る和樹の言葉を信じられないといった様子で溜息をつく。

「椎名さん、どうしちゃったのよ。そんな言葉を口にする人じゃなかったと思うんだけど」

「生きる意味って何がある?」

「そんな難しい事聞かれても。考えた事もないわ。ただ私には子供がいるし、主人もいるし、守りたいものがあるからよ」

「それが答えだよ。俺には守りたいものなんか何もない。でも自ら命を断つ勇気もない、ただ惰性で生きてるだけだよ。だったら自分に都合のいい生活送るほうがらくだろ?」

 美樹には何も答えられなかった。しかし、しばらく視線を彷徨わせていた美樹は何を思ったのか弾かれたように顔を上げた。

「ねえ。椎名さんって子供いなかったよね?」

「ああ」

「子供は? ねえ、サマーとの間にできた子供はどうなったの?」

「サマー……?」

「夏海よ、夏海」

「サマーってなんだよ。夏を英語にするなら、海も英語にしてやれよ」

「それもそうね。だったらサマーオーシャンでいいわよ」

「長いよ。それなら普通に夏海でいいよ」


 思わず二人して笑ってしまった。
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