言い訳~blanc noir~
 玄関ドアを開けるとリビングから夏海が現れた。パジャマの上からわざとらしく腹をさすっている。

「どうして電話に出ないの? もう2時過ぎてるのよ。心配になるじゃない」

「ごめんね。ちょっと佐原さんと部長に誘われて飲みに行ってたんだ」

「そうだったの? じゃあ今度からは連絡してね。和樹の身に何かあったかと思ったんだから」

 和樹は目元を緩ませ頷いた。

 そして夏海の腕を引き寄せ、顔を持ち上げると唇を重ねた。

 突然のキスに驚いた夏海は「ん」と顔を背け、和樹を見上げた。

「……和樹? どうしたの……」

「妊娠中ってだめなの?」

「え、だめって、何が?」

 夏海の髪を持ち上げ首筋に唇を這わせる。夏海は小さく吐息を零し、とん、とリビングの壁に背をついた。

「どうしたの、和樹」

 夏海を追い込むように壁に手をつくと、頬を染めた夏海がはにかんだ。

「したいの……?」

「したいよ。だけどしないほうがいいなら我慢する」

「激しくしなかったら大丈夫って先生が言ってた……」

「いつそんないやらしい事聞いてきたの」

 言いながらパジャマの中に手を差し入れる。

「だって私もしたいし。先生に訊いてみないとわからないから……この前の検診の時に聞いて来たの」

「へえ。夏海もしたかったんだ」

 パジャマに侵入させた手で夏海の素肌を弄る。夏海は「んっ」と息を吐き、もぞもぞと身を捩らせながら和樹にキスをせがむ。

「だって和樹全然してくれないし。したくないのかなって思ってた」

「したくないわけないだろ? でも今日はもう2時過ぎてるし我慢するよ」

 和樹が夏海の額に口付け微笑んだ。

「え、しないの?」

 目を見開いた夏海が瞬きをする。

「お腹の沙織がびっくりしたらいけないだろ?」

 何かを言いかけた夏海だったが、言葉を飲み込んだのがすぐにわかった。

 汚らしいキスに反吐が出そうだ。

 和樹は見えないように唇を拭う。
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