言い訳~blanc noir~
 メッセージを送信してから30分後、毛玉から返信が届いた。

 そのメッセージを何度も何度も和樹は読み返した。

 もらったメッセージに義理で返信したというよりは、本心から心配してくれている気がした。ただの文字の羅列でしかないメッセージに何か温かいものを感じ、不安に張り裂けそうだった胸のざわつきがわずかに和らぐような気がした。

 和樹は毛玉にお礼のメッセージを再び送信し、沙織の遺影に手を合わせた。


―――翌朝。

 一度出勤した後すぐに動物病院に向かった。病院内に足を踏み入れると小さな仔猫を抱えた若い女性が診察室に入って行くところだった。

 受付表に名前を書き込み待合室で順番を待っていると女性スタッフから声を掛けられた。


「椎名さん、こちらにどうぞ」

「あの、クロの容体は……?」

 女性スタッフの後を歩きながら尋ねると振り返り柔らかな笑みを浮かべた。

「クロちゃーん。お父さん迎えに来てくれたよー」

 スライドドアを引くと猫舎に入れられたクロが「ぎゃおぎゃお」と悲鳴のような鳴き声をあげていた。


「あ、あの……ぎゃおぎゃお鳴いてますけど……? クロ大丈夫なんですか?」

 すると和樹の背後から獣医が声を掛けてきた。

「肺の水がぬけたら少しらくになったようです。これから1日2回、必ずお薬を飲ませてください」

「……クロ、大丈夫なんですか!?」

「昨日もお話した通り心筋症は良くはなりません。もしかすると容体が突然変わる可能性もあります。ただ今のところ、お家に連れて帰って様子をみておかれてください」

 そして獣医がクロを抱き上げた。


「気が強いですね、クロちゃん」

「クロがですか?」

「ええ。今朝から僕ずっとクロちゃんに威嚇されてました。お家に帰りたかったんでしょうね」

 獣医が苦笑いしながら和樹にクロを手渡した。

「椎名さん。クロちゃん、あとどれくらい生きられるかはわかりませんが、薬を飲ませたとしてもここ数ヶ月だと思っておかれてください。覚悟だけはしておいてくださいね」

 念押しするように獣医に告げられ、和樹は「はい」と頷いた。
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