言い訳~blanc noir~
「ねえ。どうしてずっと連絡くれなかったの?」
「だから年末はずっと仕事が忙しかったって言ってるだろ?」
「……仕事が忙しくても連絡くらい出来るよね。メール打つのに何分もかからないでしょ?それにこんなに長い期間しなくて平気なの? もしかして奥さんとしてるんじゃないでしょうね」
募りに募った絵里子の鬱憤は一度のセックスでは気が収まらないらしい。ようやく怒りが静まったかと思えばすぐに再燃しねちねちと不満を零し始める。
和樹は辟易した様子で溜息をつくと煙草を口にした。
「―――どうなのよ?」
「え?」
話半分にしか聞いていなかったせいか突然投げかけられた質問が何を指しているのかわからなかった。
「え? って……。聞いてなかったんだ、私の話。奥さんとしてるんじゃないの?って聞いたんだけど。奥さんとエッチするのだって浮気なのよ。わかってる?」
「浮気?」
「当たり前でしょ。私以外の女とエッチしたら浮気に決まってるじゃない。椎名さんだって私が他の男とエッチしたら嫌だよね?」
思わず吹き出しそうになってしまった。
この女は何を言っているんだ?人目を忍びラブホテルで密会するしか手段がない分際で俺に何を求めてるんだ。
純愛のつもりでいるのだろうか。馬鹿馬鹿しい。
「別に? 絵里子が他の男としたいならしたらいいんじゃない?」
「ほ、本気で言ってんの!?」
「こういう関係ってそういう事じゃないの?誰かを裏切った上で成り立ってる関係に浮気も本気もないだろ。絵里子だって堀田にばれたら困るんだろ?ばれたら困るとかばれたくないって思ってる時点で浮気も本気もないだろ。所詮不倫は不倫でしかないんだし」
和樹が煙を吐き出しながら絵里子に視線を向ける。絵里子は見るからにむっとした様子で和樹を睨んだ。
「私ばれても困らないわよ。旦那にばれてもいいと思ってるし、椎名さんの奥さんにばれたっていいって思ってるけど?」
「へえ。ばれたらどうするつもり?」
「ばれたら? 慰謝料払えば済む話でしょ?」
「慰謝料って5万や10万の話じゃないよ。それに堀田からも夏海からも請求されるだろうし。軽く考えないほうがいいよ。そんなお金、絵里子持ってないでしょ?」
和樹が鼻で笑った。
「馬鹿にしないでよ。それくらいのお金、私持ってるわよ!旦那には月3万しか小遣い渡してないし、残りは全部私のものよ」
「3万? 堀田に3万しか渡してないの? あいつ手取りで40万以上持って帰って来てるだろ。何も言わないの?」
「うん。言わないんじゃなくて言わせないのよ」
この女は本気で頭が悪いのだろうか。
こんな馬鹿げた台詞を平然と口にする女を妻にしようと思う男がどこにいると言うのだ。
和樹が呆れたように肩を竦めた。
「旦那に内緒のお金、私名義で貯め込んでるの」
「そうなんだ」
「幾らあると思う?」
絵里子が不敵な笑みを浮かべた。
「さあ?」
「500万! 私、結構頑張ってるでしょ?」絵里子が誇らしげな表情を見せると和樹は遂に堪えきれずに吹き出した。
「絵里子が何を頑張ったのか俺にはさっぱりわかんないよ。それ堀田の忍耐と、堀田の頑張りだろ」
「失礼な言い方ね。節約に節約を重ねて将来のために頑張ってるんだから。椎名さんも頑張ってね」
「何を?」
「何をって……。二人の将来のためにお金必要でしょ? 私一戸建て欲しいもん。美樹の住んでるあの豪邸見た事ある?私もあんな家に住みたいの。椎名さんのマンションは奥さんとの思い出が残ってるからそんなとこ住みたくもないし。離婚した後はマンション売却してね」
絵里子はどうやら大きな勘違いをしているらしい。
いつ俺が離婚しこの馬鹿女と結婚すると言ったかは知らないが、絵里子の頭の中では都合のいい妄想が風船のように膨らみ破裂寸前のところまできているようだ。
―――その夜。
「和樹、ちょっといい?話があるんだけど」
風呂から上がると夏海がソファで和樹を待っていた。
「だから年末はずっと仕事が忙しかったって言ってるだろ?」
「……仕事が忙しくても連絡くらい出来るよね。メール打つのに何分もかからないでしょ?それにこんなに長い期間しなくて平気なの? もしかして奥さんとしてるんじゃないでしょうね」
募りに募った絵里子の鬱憤は一度のセックスでは気が収まらないらしい。ようやく怒りが静まったかと思えばすぐに再燃しねちねちと不満を零し始める。
和樹は辟易した様子で溜息をつくと煙草を口にした。
「―――どうなのよ?」
「え?」
話半分にしか聞いていなかったせいか突然投げかけられた質問が何を指しているのかわからなかった。
「え? って……。聞いてなかったんだ、私の話。奥さんとしてるんじゃないの?って聞いたんだけど。奥さんとエッチするのだって浮気なのよ。わかってる?」
「浮気?」
「当たり前でしょ。私以外の女とエッチしたら浮気に決まってるじゃない。椎名さんだって私が他の男とエッチしたら嫌だよね?」
思わず吹き出しそうになってしまった。
この女は何を言っているんだ?人目を忍びラブホテルで密会するしか手段がない分際で俺に何を求めてるんだ。
純愛のつもりでいるのだろうか。馬鹿馬鹿しい。
「別に? 絵里子が他の男としたいならしたらいいんじゃない?」
「ほ、本気で言ってんの!?」
「こういう関係ってそういう事じゃないの?誰かを裏切った上で成り立ってる関係に浮気も本気もないだろ。絵里子だって堀田にばれたら困るんだろ?ばれたら困るとかばれたくないって思ってる時点で浮気も本気もないだろ。所詮不倫は不倫でしかないんだし」
和樹が煙を吐き出しながら絵里子に視線を向ける。絵里子は見るからにむっとした様子で和樹を睨んだ。
「私ばれても困らないわよ。旦那にばれてもいいと思ってるし、椎名さんの奥さんにばれたっていいって思ってるけど?」
「へえ。ばれたらどうするつもり?」
「ばれたら? 慰謝料払えば済む話でしょ?」
「慰謝料って5万や10万の話じゃないよ。それに堀田からも夏海からも請求されるだろうし。軽く考えないほうがいいよ。そんなお金、絵里子持ってないでしょ?」
和樹が鼻で笑った。
「馬鹿にしないでよ。それくらいのお金、私持ってるわよ!旦那には月3万しか小遣い渡してないし、残りは全部私のものよ」
「3万? 堀田に3万しか渡してないの? あいつ手取りで40万以上持って帰って来てるだろ。何も言わないの?」
「うん。言わないんじゃなくて言わせないのよ」
この女は本気で頭が悪いのだろうか。
こんな馬鹿げた台詞を平然と口にする女を妻にしようと思う男がどこにいると言うのだ。
和樹が呆れたように肩を竦めた。
「旦那に内緒のお金、私名義で貯め込んでるの」
「そうなんだ」
「幾らあると思う?」
絵里子が不敵な笑みを浮かべた。
「さあ?」
「500万! 私、結構頑張ってるでしょ?」絵里子が誇らしげな表情を見せると和樹は遂に堪えきれずに吹き出した。
「絵里子が何を頑張ったのか俺にはさっぱりわかんないよ。それ堀田の忍耐と、堀田の頑張りだろ」
「失礼な言い方ね。節約に節約を重ねて将来のために頑張ってるんだから。椎名さんも頑張ってね」
「何を?」
「何をって……。二人の将来のためにお金必要でしょ? 私一戸建て欲しいもん。美樹の住んでるあの豪邸見た事ある?私もあんな家に住みたいの。椎名さんのマンションは奥さんとの思い出が残ってるからそんなとこ住みたくもないし。離婚した後はマンション売却してね」
絵里子はどうやら大きな勘違いをしているらしい。
いつ俺が離婚しこの馬鹿女と結婚すると言ったかは知らないが、絵里子の頭の中では都合のいい妄想が風船のように膨らみ破裂寸前のところまできているようだ。
―――その夜。
「和樹、ちょっといい?話があるんだけど」
風呂から上がると夏海がソファで和樹を待っていた。