言い訳~blanc noir~
「俺、なにやってるんだろうな」


 絵里子を抱いた後、バスルームから聞こえるシャワーの音を聞きながらぽつりと呟いた。絵里子とは相変わらず無意味な関係が続いていた。

 自分にとって単なるおもちゃ。それが絵里子だった。

 この安っぽい馬鹿な女を奈落の底に叩きつけてやりたい衝動にいつも駆られてしまう。


 堀田と絵里子の夫婦仲は完全にこじれ、堀田と和樹の関係性も険悪なものとなった。

 それも別にどうでも良かった。

「訴えるなりなんなりご自由にどうぞ。それでも気が済まないなら殺してくれていいから」

 そう堀田に言った。

「椎名さん、どうしたんですか……?」

 堀田は目を見開き絶句していた。


「別に。俺、何もかもどうでもいいから」



 くだらない毎日が無意味に日を連ねてゆく。


 クロが死んだ後、ブログに書く事もなくなった。


【クロと私とご主人様】このタイトルが虚しく感じる。クロも私もいなくなり、この世に残ったのは“ご主人様”だけだ。

 毛玉との交流もいつの頃からか疎遠になっていた。それでも時折、クロが繋いでくれた毛玉との縁を切る事が不安に感じ思い出したようにコメントを書き込む。

 そこは相変わらず優しくて穏やかな空気が流れていた。その空気に触れる事で荒んだ自分の魂を浄化させていたのかもしれない。

「沙織、クロと仲良くやってるか?」

 ブログに貼られたクロの写真を眺めながら呟いた。

 勿論返事なんかあるはずもない。


 沙織がいる場所までの道のりを遠く感じながら、どこまで歩いても歩いても辿り着けない。

 いつか会えるだろうか。

 もう一度沙織に会えるだろうか。


―――沙織に会いたい。


 もう無理だとはわかっていても沙織に会いたくて、何度でも言葉にしてしまう自分が情けない。
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