言い訳~blanc noir~
 携帯電話の着信音で目が覚めた。


 休みの日に朝っぱらから誰だよ……。まだ意識がぼやける頭で和樹が呟いた。


 体が重たく意識がまだぼんやりとしている。

 目を閉じたままベッド横のローチェストの上に置かれた携帯電話に手を伸ばした。重たい瞼を開けディスプレイを確認すると“小泉美樹”と表示されている。


「もしもし」


「どうして昨日電話くれなかったの?」


 半分寝ぼけていたせいか頭が回らず、美樹が何を言っているのか一瞬わからなかった。


「え?」


「え、じゃないでしょう? まだ寝てたの?」


 次第に意識が覚醒し、昨夜美樹とケンカ別れした事を思い出した。

 和樹はベッドに腰掛け煙草に火をつけた。


「ねえ、どうして昨日は電話くれなかったの?」


 そう言えばクロ、どうなったんだろう? ふいに沙織の胸から飛び出したクロの姿が脳裏によぎった。

 何の応答もない和樹に、美樹が困惑する。


「もしもし? 聞こえてる?」


「ああ、ごめん」


 やっぱり人の話なんて聞いてない。美樹はうんざりと溜息をついた。


「もう一度聞くね。どうして昨日電話くれなかったの?」


「俺が掛けたところで電話に出てた? 美樹ちゃんの性格だと電話出ないだろ?」


 直球をくらったのか美樹は言葉に詰まりたじろいだ。


「だからって電話掛けないの? 仲直りする気がないって事?」


 これからクロを探しに行ってみるか。

 和樹の耳に、美樹の声は届かない。


「ごめん。また掛けるよ」


「なにそれ。椎名さん、謝る気ないの?」


「悪いけど朝からそんな話ならしたくない。じゃあ」


 美樹はまだ何か言っていたが、美樹の言葉には耳を傾けず和樹は通話終了のボタンを押した。
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