言い訳~blanc noir~
「もしもし?」


「広瀬さんですか? 椎名と申しますが」


「あ! 椎名さんですか? 昨日はすみませんでした」


「クロちゃん見つかりましたよ。僕のマンションでお預かりしてます」


 すると沙織が「うっ」と声を詰まらせた。


「……広瀬さん?」


「ご、ごめんなさい。良かった……クロ、怪我とかしてませんか?」


 沙織はクロが見つかった事がよほど嬉しかったのか泣いているようだ。


「大丈夫ですよ。大人しく寝てます」


「良かったぁ。椎名さん、本当にありがとうございます。これから伺います」


 和樹は部屋の号室を沙織に告げ電話を切った。


「良かったな。もうすぐお迎えが来るよ」


 クロの頭を撫でるがクロは相変わらず体を丸めたまま身動き一つ取らない。


「猫って不愛想なんだね」


 残りの食パンを口にしながら話し掛けるが勿論クロから何の返事もない。

 不思議な生き物だ。


 そんな事を思っていると沙織がやって来た。


「すみません。ありがとうございました」


 玄関の扉を開けるとグレーのパーカーを羽織り、細身のデニムを穿いた沙織が立っていた。


「どうぞ、上がってください」


「お邪魔します」


 沙織がスニーカーを脱ぎ、きちんと揃える姿を眺めていると右手に包帯が巻かれていた。昨日手の甲から血が流れていたがその傷だろうか。


 しかし沙織の顔を目にした瞬間、和樹は目を見開いてしまった。


「……あ、すみません。汚い顔で……」


 沙織は気まずそうに顔を背けた。


「どうされたんですか……?」


 口元が紫色に内出血している。わざわざ理由を訊ねなくても、誰かに殴られた事くらい見ればすぐにわかる傷だった。


「ちょっと転んじゃって……。私どんくさいから」
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