言い訳~blanc noir~
 沙織はわざとらしく笑ってみせた。そして和樹のベッドの上で丸くなるクロの姿を目にした沙織は安堵の溜息を零した。


「クロ! 良かったぁ」


 沙織がクロの顔に口付け、頬をすり寄せる。しかしクロはどうでも良さそうな顔で相変わらず無言だった。その様子があまりにも可笑しくて和樹は笑ってしまった。


「猫って表現力に乏しいですよね。無表情というか」


「ええっ! そんな事ないですよ。ほら、クロ笑ってる! ほら?」


―――どこが?


 和樹は吹き出してしまった。


「どうしてわからないんですか? クロ、今大喜びしてますよ? ね?」


 沙織が必死にクロのフォローをしているが、和樹にはクロが笑っているようには見えなかった。


「紅茶がいいですか? コーヒーがいいですか?」


「え、あ、お構いなく」


「お茶くらい飲んで行ってください」


「じゃあ、紅茶で」


 沙織が優しげな笑顔を和樹に向けた。その笑顔に思わず目を奪われた。


 美樹と比較してどうこう言うのは失礼な話だと思うが、美しさで言えば圧倒的に美樹のほうが美人だろう。

 着ている服にしても髪型にしても美樹のほうが断然華がある。

 沙織が羽織っているパーカーやデニム、スニーカー、全てを合計しても美樹が履いているパンプスの金額で十分過ぎるほどのお釣りがくるはずだ。


 肩にかかるほどのストレートの髪をシュシュで一本に結び、後れ毛がうなじに零れていた。

 しかし一切の穢れを知らないような優しげな笑顔。子供のように無邪気な沙織の笑い声がとても魅力的に感じてしまった。


 和樹は湯気が揺蕩うティーカップをテーブルに置くとベッドに腰をおろした。


「いただきます」


 両手をあわせてぺこりと沙織が頭を下げる。そしてカップに口を近づけふうふうと息を吹きかけた。


 どういうわけか沙織の姿を目で追ってしまう。
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