言い訳~blanc noir~
これまでも過去の女に手料理を振る舞ってもらう事はあったが、どこか打算のようなものを感じる事が多かった。媚びと言えばいいのか、あざとさと言えばいいのか。
そう感じるのは独りよがりな驕りかもしれないが「私って家庭的でしょ?」と真正面からアピールされると身じろいでしまいたくなる。
どういうわけか、沙織にはそういった駆け引きのようなものを一切感じない。
普段であれば理由はどうであれ、職場に手作りのいなり寿司を持って来られた時点で疎ましく感じてしまう。
こうやって面識が薄い女を家にあげ、手料理を振る舞ってもらいたいとも思わない。
だが沙織に対しては違った。
純粋にもっと沙織の事を知りたい。もっとたくさんの話がしたい。
今まで離れていた時間を一日でも早く埋めてしまいたい、そう思うこの感情が一体何なのか、和樹にはわからない。
「ついてる」
口元に突然沙織の指が触れ、驚いた和樹は目を丸くさせた。
「え?」
「ご飯粒ついてました」
沙織が人差し指の腹を和樹に見せると白い米がついていた。和樹がはにかんだように笑うと沙織はその指を口元に近付け米を飲み込んでしまった。
馬鹿みたいだが、たったそれだけの仕草に戸惑った。
テーブルに並んだ高菜ピラフと豆腐の味噌汁、ささみと野菜の炒め物。いつも外食ばかりの和樹にとってはどれもが新鮮だった。
しかし沙織は眉を下げ申し訳なさそうに口を開いた。
「ごめんなさい。こんなものしか作れなくて。お財布に1000円しか入ってなかったんです。もう少しボリュームのあるものを作りたかったんですけど。また機会があったら作らせてください」
「あ、すみません」
和樹は慌てたように箸を置くと財布を取り出し1万円札をテーブルに置いた。
「お金を渡すの忘れていました。すみません」
沙織は目を真ん丸にさせ顔の前で手を振った。
「結構です。そういう意味じゃないんです。本当に結構ですから」
沙織がテーブルの1万円札を和樹の前に置き直した。
「すみません、お釣りがないものですから。広瀬さんのお金を使わせるわけにはいかないので。これ、本当に受け取ってください」
しかし沙織は首を横に振るだけで受け取ろうとしなかった。
「意外と頑固なんですね」
和樹が困ったようにそう言うと「はい」と笑いながら沙織は頷いた。
「また、ご飯作りに来てもらってもいいですか?」
「いいですよ。今週は主人がいないから。そうだ! 椎名さん!」
沙織は何か思いついたのか目を輝かせた。
そう感じるのは独りよがりな驕りかもしれないが「私って家庭的でしょ?」と真正面からアピールされると身じろいでしまいたくなる。
どういうわけか、沙織にはそういった駆け引きのようなものを一切感じない。
普段であれば理由はどうであれ、職場に手作りのいなり寿司を持って来られた時点で疎ましく感じてしまう。
こうやって面識が薄い女を家にあげ、手料理を振る舞ってもらいたいとも思わない。
だが沙織に対しては違った。
純粋にもっと沙織の事を知りたい。もっとたくさんの話がしたい。
今まで離れていた時間を一日でも早く埋めてしまいたい、そう思うこの感情が一体何なのか、和樹にはわからない。
「ついてる」
口元に突然沙織の指が触れ、驚いた和樹は目を丸くさせた。
「え?」
「ご飯粒ついてました」
沙織が人差し指の腹を和樹に見せると白い米がついていた。和樹がはにかんだように笑うと沙織はその指を口元に近付け米を飲み込んでしまった。
馬鹿みたいだが、たったそれだけの仕草に戸惑った。
テーブルに並んだ高菜ピラフと豆腐の味噌汁、ささみと野菜の炒め物。いつも外食ばかりの和樹にとってはどれもが新鮮だった。
しかし沙織は眉を下げ申し訳なさそうに口を開いた。
「ごめんなさい。こんなものしか作れなくて。お財布に1000円しか入ってなかったんです。もう少しボリュームのあるものを作りたかったんですけど。また機会があったら作らせてください」
「あ、すみません」
和樹は慌てたように箸を置くと財布を取り出し1万円札をテーブルに置いた。
「お金を渡すの忘れていました。すみません」
沙織は目を真ん丸にさせ顔の前で手を振った。
「結構です。そういう意味じゃないんです。本当に結構ですから」
沙織がテーブルの1万円札を和樹の前に置き直した。
「すみません、お釣りがないものですから。広瀬さんのお金を使わせるわけにはいかないので。これ、本当に受け取ってください」
しかし沙織は首を横に振るだけで受け取ろうとしなかった。
「意外と頑固なんですね」
和樹が困ったようにそう言うと「はい」と笑いながら沙織は頷いた。
「また、ご飯作りに来てもらってもいいですか?」
「いいですよ。今週は主人がいないから。そうだ! 椎名さん!」
沙織は何か思いついたのか目を輝かせた。