言い訳~blanc noir~
「―――爆破とは随分凶暴だね、美樹ちゃん」


 背後から声を掛けると美樹がゆっくりと顔を上げた。

 約12年ぶりの再会だったが以前と変わらず陶器のように艶やかな肌と気の強さが感じられる黒い瞳が印象的だ。

 以前より大人っぽくなった、と思ったが、さすがに12年も経てば当たり前か。


「久しぶり。12年ぶりだね」


 美樹が座る正面の椅子に腰をおろしながら声を掛ける。鼻先で美樹が笑った。


「絵里子の次はお前か、そう思ったんじゃないの?」


 ゆったりとした仕草で髪を掻き上げる美樹の目が和樹を見据える。


「なんだ。絵理子とのこと、知ってたんだ」


「本人から聞いたわ。椎名さんを殺そうと思ったけど殺せなかったって」


「絵理子とずっと付き合いがあったんだね」


「そうじゃないわ。私、あの人のこと昔から嫌いだもの。ずっと連絡なんて取ってなかったけど、ばったり会った時にあまりにボロボロだったから驚いたの。それで話を聞いたら、何だかドラマみたいな凄い話じゃない? さすがにびっくりしたわ」


「まあ、確かにね。出刃包丁を片手に襲撃されるとは思わなかったよ」


 12年ぶりの再会。美樹の目に映る和樹にくたびれた印象はなく、むしろ、年齢を重ねた分だけ大人の色気が増していた。

 しかし、二人の会話は昼下がりのカフェで交わすにはとんでもなく物騒だ。


「それで今日は絵理子の敵討ちでわざわざ大阪まで来たの?」


「別に。そこまでの友情もないし。それよりちょっとは反省してるの? 全然そんなふうに見えないけど」


「反省? そうだね、もっとうまくやれば良かったよ」


 美樹はハーブティーを口にしながら呆れたように笑った。和樹の姿かたちは美樹が知っている和樹なのに、口調はどこか斜に構えた印象を感じた。
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