言い訳~blanc noir~
「椎名さん、いつか本当に刺し殺されるわよ」


「刺し殺すも何も、美樹ちゃんは俺を爆死させたいんでしょ」


 和樹が言ったタイミングで店員が注文したコーヒーを運んできた。二人の言葉にぎょっとした表情を浮かべ、まずいものを見聞きしたといわんばかりの様子でカウンターに戻って行った。


「昔の恋人を12年後に爆死させて人生終わりにしたくないわ。今日はね、椎名さんに聞きたい事があってこっちに来たの」


「そのために大阪まで? 随分と暇を持て余してるんだね」


「そうね。悠々自適な生活を送る主婦はお金はあるけど暇なのよ。そんなことより結婚するんだってね。正確には再婚になるんだっけ? 絵理子から少し聞いた程度だけど、大富豪のご令嬢らしいじゃない」


「女の子の口に戸は立てられないみたいだな。それだけ知ってれば十分じゃないの?」


「ええ。別に椎名さんが誰と結婚しようがどんな生き方をしようが私には関係ないけど。でもずっと気持ちが落ち着かないの」


「気持ちが落ち着かないって?」


「私が知ってた椎名さんじゃないって事よ。椎名さんってそんな人じゃなかったと思うの。絵理子から話を聞いて驚いたわ。別人かと思ったくらいのクズぶりなんだもの」


「クズ、か。否定はしないよ。それで? 俺に何が聞きたいの?」


 コーヒーを口にしながら美樹を見つめると、すらりと長い足を組みかえた。が、パンプスの印象が強い美樹だったが、ムートンブーツだったのが意外だった。

「そうね。せっかくだから私と別れた理由を教えてよ。別れの理由もろくに教えてくれなかったでしょ? もう12年前だから時効にしてあげるわ。あとは、そうね……」

 頭を巡らせるように目線を上げた美樹は、


「―――ねえ椎名さん、何があったの?」

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