言い訳~blanc noir~
「今、おっぱい見たでしょ」


 紅茶を吹き出しそうになった。


「見てないですよ」


「ほんとに? 神様に誓えますか?」


「神様……ですか」


 信仰心が篤いわけではないが、さすがに“おっぱい”如きで神様に嘘をつくのはどうかと思った。


「いや、ちょっと目がいきました……」


「どこに?」


「えっ?」


 沙織が目元を緩ませ、意地悪そうな表情を浮かべていた。


「どこってその……」


「おっぱい?」


「……これ何の罰ゲームですか」


 すると沙織が腹を抱え笑い出した。


「ご主人様ってシモネタとか絶対に言わなさそう。“おっぱい”って言葉を口にした事ありますか?」


「……ありますよ」


「じゃあ言ってみてください」


 沙織は笑いを堪えているのかにやにやとした表情で顔を覗き込む。


―――俺はなぜ沙織にからかわれているのだろう。


「おっ、」言おうとした瞬間、急にどうしようもなく気恥ずかしさが込み上げ後の言葉が続かなかった。


「おっ? なになに? なんですか?」


「あの、ちょっと無理です。普段なら言えるんだけど、言えって言われたら言えないものですね」


 なぜこんな言い訳をしているのか自分でもわからなかった。しかし沙織はその様子が可笑しいのか腹を抱えながらベッドに倒れ込むように笑っている。


「ご主人様がシモネタ言ったり、下品な言葉を言う姿が全く想像できないんです、私」


「張り切ってシモネタ言ったりはしませんけど……」


「ご主人様って性欲とかあるんですか?」


 沙織のその質問にとうとう吹き出してしまった。


「ありますよ。僕、どんなイメージを持たれてるんですか」


「中性的な人かなぁ? 一緒にベッドで寝ても手出されそうにないというか、そんな気がします」


 ふと職場の古賀から言われた「椎名さんって遊んでそうですよね」という言葉を思い出した。やはり人が言う「そんな気がする」という言葉ほどあてにならないものはない。そう思うと笑えてきた。


「あまりからかわないでください。僕、何するかわかりませんよ」


「何するかわからないって何するんですか?」


 和樹は沙織の肩に手を掛け、ベッドに押し倒すと息がかかるほど近くに顔を近づけた。


 突然押し倒された沙織は目を丸くさせ和樹を見つめる。
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