言い訳~blanc noir~
◇追憶~12年前~
「―――この前、絵里子とね、買い物に行ったら可愛いサンダル売ってたの。買おうかなって思ったんだけどそれだけセール除外品だって。ひどくない?……ねえ、聞いてる?」


 美樹の「ねえ、聞いてる?」という言葉で和樹ははっと我に返り、取り繕うように笑顔を向けたが時すでに遅しだったようだ。

 美樹は面白くなさそうに口を尖らせていた。


「椎名さん聞いてなかったでしょ?」


「ごめん。ちょっと疲れててさ」


「最近疲れてる疲れてるってそればっかり。2週間ぶりに会ったのに上の空ってちょっとひどくない? 最近電話もすぐ切りたがるし、メールもレスポンス悪いし。面白くない」


「ごめん」


 和樹は困ったように笑うとテーブルの煙草に手を伸ばした。

 恋人の小泉美樹は和樹より5歳年下の23歳。司法書士事務所に事務員として勤務している。

 目鼻立ちがはっきりとした顔立ちとすらりと伸びた手足、一般的に美人と呼ばれる類の女だ。

 本人もそれをわかっているのだろう。自分に似合う服装や髪形をよく知っている。

 より美しく見えるように、より華やかに見えるように、いつもファッション誌をチェックし、女友達と競い合うように給料の大半を買い物に費やしていた。

 そして美樹は負けん気が強くてプライドが高い女でもあった。

 口喧嘩では勝てる気がしないほど頭の回転が速く、弁も立つ。若くて美人でスタイルが良くて賢い女。美樹が彼女だと知る連中は、皆、羨ましがっていた。
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