言い訳~blanc noir~
「俺が声を掛けたんだよ」


 和樹がそう答えると一同「ええ!!」と驚きの声をあげた。沙織も驚いたように和樹の顔を見上げる。


「声掛けたってナンパですか?」


「ああ。銀行に来てた沙織に声掛けたんだ」


「いやいや。それコンプライアンス的にどうなんですか」


 そう言いながら後輩が笑う。


 すると話題が切り替わり、大学時代の話になった。

 和樹はその話には積極的に参加せず、沙織に面接がどうだったかについて訊ねていた。

 しかし内心は落ち着かなかった。沙織に話をふらないでくれと願っていたが、古賀が沙織に目を向ける。


「沙織さんってどこの大学出身なんですか?」


 きっと古賀は悪意があるわけでも沙織に敵意を持っているわけでもない。そうわかっていても古賀に対して憤りを感じてしまった。


「大学……」


 沙織は和樹の立場を気にしたのだろうか。和樹に向けた眼差しが“どうしよう”と訴えているようだった。


「もういいだろ? こんな時間だしそろそろ出ないか? 店に入って2時間経ってるよ」


 腕時計を一瞥した和樹が言うと、皆同じように腕時計に目を向けた。


「あ、本当だ」


「あっという間でしたね」


 そして和樹と沙織以外、他の連中は二次会でもう一軒寄って行くと言い出し、店の前で現地解散する事になった。


 沙織と二人になると急に気まずいような静けさが訪れた。それがどうしてなのか薄々わかってはいても言葉に出す事が出来なかった。


「騒々しい連中だろ? ごめんね、疲れたんじゃない?」


「ううん。大丈夫です」


 沙織が首を振る。適当な話題をふっても会話が続かずどこかぎこちないまま二人で歩く。

 右手を握ると沙織がゆっくりと顔を見上げる。
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