言い訳~blanc noir~
 沙織が手帳を開き、挟んでいた写真を取り出した。

 タキシードを着た和樹とウェディングドレスを着た沙織が写っている。


 先日沙織と出掛けたときに通りかかった式場が沙織の好みだったらしい。

 中世の古城のような、厳かな雰囲気が漂う小さな式場だった。


 沙織に手を引かれ、中に入るとすぐに受け付けの女性スタッフから案内され、「良かったらドレス見て行かれませんか?」と声を掛けられた。

 沙織は顔をほころばせ和樹に「いい?」と訊ねてきた。

「いいよ」と和樹が微笑むと「やったー」と無邪気にはしゃぎながらドレスを選び、なぜか和樹のタキシードも勝手に選んでいた。

 フィッティングルームで着替え、鏡の前で沙織を待っているとミルフィーユのようにレースを幾重にも重ねたプリンセスラインのウェディングドレスに、小さなティアラを頭に乗せた沙織が現れた。


 その姿があまりにも美しく、このまますぐに役所に行こうかと思うほどだった。


「どうですか?」


「凄く綺麗だよ」


 そう言うと沙織はにっこりと笑った。


「ご主人様、お優しいんですね」とスタッフに声を掛けられた沙織は大きく頷いた。


「はい!! ご主人様より優しくてかっこいい人いませんから! 私の大切な宝物なんです!!」


 沙織の力強い言葉にスタッフが若干引いていたのを和樹は見逃さなかった。


 そのときにデジカメで数枚撮影した写真。

 プロのカメラマンに撮ってもらったかのように綺麗に写っている写真が何枚かあり、それを先日現像していたのだ。


 沙織がその写真の裏にマジックで文字を書き始めた。



 ご主人様*沙織



「この写真も宝物です」


 そう沙織が微笑み、再び手帳に挟みバッグにしまった。
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