言い訳~blanc noir~
「美樹さんと別れたって知ったとき、私にもチャンスあるかも? って思ったんだけど。でも一足遅かったようです。沙織さんが相手じゃ太刀打ち出来ないなーって、この前の飲み会で思いました。沙織さん、私より5歳も上だけど凄く可愛い方ですね」


「ああ、可愛いよ、沙織は。本当に大切に思ってるんだ」


 和樹が照れ笑いすると古賀が失笑気味に肩を揺らした。


「気が付いてなかったでしょうけど。私、椎名さんの事が好きでした」


 古賀が和樹を見上げた。

 突然、喫煙所で古賀から思いを告げられるとは思ってもいなかった。和樹は驚いたように目を丸くさせる。


「ごめん。全く気付いてなかったよ」


「気付いてたとしても軽く受け流されるか、適当に遊んで捨てられるか。多分どっちかだったんでしょうね」


 古賀が笑う。和樹はどう答える事が正解なのか適切な言葉が見つからず、困ったように笑うしかなかった。


「俺、ひどい言われようだな」


「相手が沙織さんじゃ太刀打ち出来ないし。もう潔く諦める事にします」


「こういうときどう言えばいいのかわからないけど。これからも仕事のパートナーとしてよろしく」


 そう伝えると古賀が「はい」と笑顔で頷いた。


「生まれ変わったら彼女にしてくださいね」


「あ、ごめん。それも沙織ともう既に約束してるから」


 古賀が「まいったなぁ」と大笑いした。


「お先に」と喫煙所を出て行こうとする古賀が、何かを思いだしたかのように足を止めた。


「そうそう。美樹さんの新しい彼氏の話って噂聞いてます?」


「美樹ちゃんの彼氏?」


「あ、知らなかったんですね。びっくりですよ」


「どうしたの?」


「美樹さんの彼氏って資産家の息子ですよ。婚約したとか。どこまでどうなのかよく知りませんけど、近々結婚するっぽいですよ」


「へえ。そうなんだ」


 美樹には申し訳ない事をしたな、と、いつも美樹を思い出すと後味の悪い思いが胸に取り巻いていた。古賀にそう聞かされ、驚きはしたが、どこかほっとしたような気になってしまった。


「美樹さんの好みのタイプって凄くわかりやすいですね」


「そうなの? タイプがよくわからないけど」


「椎名さんに雰囲気が似てるってみんな言ってますよ。まあ、私は椎名さんのほうが絶対にイケてると思いますけどね」


「でも相手は資産家の息子なら、俺なんかと比べ物にならない金持ちだろ。美樹ちゃん、俺と別れて良かったのかもね」


「捨てる神あればなんとやらってやつですね。じゃあ、お先でーす」



 美樹が結婚か。

 そう思うと不思議な気がした。

 自分の恋人だった女が他の男と出会い、そして、恋愛が始まる。自分の中に残っている美樹の姿は、自分に思いを寄せていた。

 思い上がりも甚だしいが、美樹は未だに自分を思っていると大きな勘違いをしていた。



 男は馬鹿な生き物だな。


 和樹が呟く。

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