恋?…私次第。~好きなのは私なんです~

「構いませんよ。一人暮らしなのかな?」

「え?」

「別に詮索したい訳じゃないんだ。一人だと、ボソッと呟く癖がついたりするからと思ってね。それで」

…鋭い。

「はい、ついつい一人で話してしまいます」

肩に掛けたままだったバッグの紐をシートベルトの下でモゾモゾと下した。握ったままだったハンカチをしまった。

「一人暮らしが長いんだね。あ、これも特に意味は無いから、悪く思わないでね?」

「はい、大丈夫です。…程々に長いです。あの、お怪我の具合はどうですか?まだ身体…」

見えてない部分は痛みがあるのか解らないから聞いた。

「うん、まだ身体の痛みはあちこちにあるかな。痣も出来てるし。酷いもんだったよ?でも顔は大した事なかったから。若い子は手加減を知らなくて困るよねぇ」

ペチペチと頬を叩いて見せた。

「え、あー、そういう事では、無い、ような」

「うん、そういう事ではないよね、ハハハ。あれからカードを止めたり、色んな物の再発行の手続きをしたり、大変だった。財布ごとだったからね」

「そうですよね。手続きは面倒ですよね」

「うん、ちょっと面倒だよ?もう一度に沢山はごめんだ」

フ、比較的明るい。怪我を負わされてお金を盗られてしんどいだろうに。元が楽天的なのかな。まあ、いつまでも落ち込んでも仕方ないか…。一層の事、現金だけ渡してしまった方がマシかも知れない。抵抗すればする程、暴力だって増すだろうし。
カードはカードケースに別に入れておく方が良さそうね。これも一つ教訓になった。

「あの日は、息子と約束をしていたんだけど、直前になって職場でトラブルが発生したとか言ってきてね。急遽キャンセルだ。中々、色々と大変みたいで。で、仕方ないから帰ろうとしたら、あの災難だ。…悪くもないのに、お前のせいだぞって、言ってやりたくなったよ、言わないけどね。ハハハ。あ、ここだ。下に入るからね」

そう言って、地下の駐車場に車を入れた。


息子さんが居るんだ。しかも、仕事をしているような大きな息子さんなんだ。

「ん?さあ、行こうか。話の続きは、食事をしながらって事で」

「はい」

シートベルトを外しバッグの紐を肩に掛けた。もたもたしていたつもりも無かったが、いつの間にかドアを開けられ、手を取られていた。こんな感じのエスコートは、このくらいの年齢の人ならスマートに熟すモノなのかな。こっちは一々照れてしまいそうだけど。澄ましていた方がきっと自然なのよね。

「…有り難う、ございます」

どうしても照れてしまう。
出した足を揃えて立ち上がった。




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