恋?…私次第。~好きなのは私なんです~
「少し寄り道をしてもいいかな?」
「え?はい、どうぞ」
済ませたい用でもあるのかな?
ホテルでの食事とデザート、ケーキビュッフェはとても満足できる物だった。先にケーキビュッフェの事も聞いていたから、食事の分量配分も上手くいった。好きなケーキを堪能する事が出来た。
雨は上がっていた。元々小降りだった。路面も乾いていた。雨上がりの独特な匂いがしていた。
「近くに駐車場が無いから、ここから少し歩くけど、いい?」
「はい、大丈夫です」
寄り道とは…一体どこへ行くのだろう。一緒に行っていいの?
路上にある駐車スペースに車を停め、歩き始めた。…あ、ここは。
歩いて向かっている先は、あの公園だと直ぐに解った。
「…何だかここに来たくてね」
嫌な場所だと敬遠したくはないのだろうか。
陽は少し傾き始めていた。
「寒くない?風も少し吹いてる。…昼間の約束だったからね」
優しい眼差しを向けられた。きっと寒ければ上着を掛けてくれるつもりだったのだろう。
ワンピースにカーディガンを羽織っていた。まだそんなに寒くない。平気だ。風で少し乱れた髪を直した。
「大丈夫です。寒くないです」
「少し、座ろうか」
そこ、と、あの日並んで腰掛けたベンチに、また並んで座った。ベンチは綺麗に乾いていた。
一応、高守さんは先に手で撫でて確かめた。
「今日の雨でとどめを刺されてしまったかな…」
そう言って空を仰いだ。私もつられて上を見た。
見上げた先の桜の枝は、花が散り、よく見ると、花びらの無くなった軸と出始めの葉っぱだけになっていた。
「そうですね、もうこれからは葉桜ですね。花はすっかり散ったみたいですね」
ベンチの足元には吹きだまりのように濡れた花びらが厚く重なっていた。
「そうだね。あ、これ、有り難う」
上着のポケットから出されたものはハンカチだった。
「私に貸してくれて傷に当てたものだから、もう、どうなのかなと思ったけど、洗濯はちゃんとしてあるから返しておくね。有り難う、親切にしてくれて。本当に有り難かったよ」
「いいえ、大した事はしてないです。これは使います。お気遣い頂き有難うございました」
「…いや」
「私も、お渡しするものがあるんです。あの、…これです」
ハンカチと入れ替えに封筒を取り出して渡した。このタイミングで出せて良かった。
「…これは?」
チャリンと硬貨の音がした。勿論、中身は硬貨だけでは無い。
「高守さんが運転手さんに渡したタクシー代のお釣りです。釣りはいいからって貰うには多過ぎるって、運転手さんが律儀に。だから、お返しします。有難うございました。高守さんのところから私の部屋まではそんなに距離は無かったし。それで」
「ん?病院からだよ?お釣りって、こんなに…可笑しいだろ…。病院から私の家までの分は?…もしかして君、払ったの?というか、差し引いたの?あ、折半したんだね」
封はしていなかった。封筒を傾けて中身を摘まんで引き出しながら言った。
「あ、それは…」
「駄目だよ?それを払うのも私がして当たり前。代金の全ては私が払わないと。駄目だよ、こんな事しちゃ。運転手が返してきたのなら、これは、君が取っておくべきモノでいいんだよ」
また戻されてしまった。でも…、お釣りの分は貰えないのに。