恋?…私次第。~好きなのは私なんです~

「君さえ良ければだけど。嫌でなければ、私はまた会いたいと思ってる。…駄目だろうか」

「あの…」

えー、どう取ればいいんだろう。お礼は済んだ。なのに、またって…。

「…どうかな。改めてなんて…もう…。こんなオジサンは嫌かな」

また会いたい、改めて?…あ。これって……もしかして、そうだ…そういう事かも知れない…。でも、私にそんな魅力は…。ううん、そんな事ではない。駄目よ、駄目に決まってる。

「私…、解りません。…子供なんでしょうか。そういったモノ、理解できません。そんな事を言う高守さんの気持ちが解りません。…会いたいって、どういう意味ですか?」

「え?あー。…そう、だね」

明らかに複雑な顔をしていた。言い辛いのだろう、頭を掻いた。

「私の気持ち…どういう意味、か。そうか…。はぁ、…そうだね、はっきり言わないと解らないか…うん、そうだよね。…こんなオジサンだし、出会って間もない訳だから、また会いたいなんてびっくりしたよね……私はね…」

「いえ。やっぱり言わないでください。はっきり言ってもらわなくて大丈夫です、聞きません。会えません…無理です、…ごめんなさい。そういうのは私は無理です、考えられません。…嫌です。
番号は消しておきます。私の番号も消してください。あの、さようなら。今日は御馳走になり有難うございました、お大事に。…これ」

慌てて封筒を取り出してベンチに置いた。
バッグの肩紐を握って頭を下げ、南口へ駆け出した。

「あ!待って。ちょっと……違うんだ…」

…はぁ。そんなつもりではない。私は…。

「…嫌か。考えられない…無理ですって、はぁ、まだ早過ぎたかな。いや、元々オジサンは無理って事か。そうだよな。んー、またご飯でもってくらいの話で今日は終わらせておけば良かったかな…。それも駄目か…。はぁ、嫌です、か。
もう嫌われてしまったか…」

置かれたままの封筒を取り敢えず内ポケットにしまった。


冗談じゃない。家庭のある人が何を言ってるの。いきなり…びっくりした。…はぁー、びっくりした。
そんな事、言うような人だとは思わなかった。…有り得ない。感じの良さそうな人だったのに。
どうかな、って言った顔が何だか…妙に色っぽかった。何を考えていたのだろう。…嫌だ。嫌だ嫌だ。
…私も、お礼だからといって、つい、連絡なんかして、ほいほい待ち合せたりして…。調子に乗っちゃったのかな。…はぁ、あー嫌な気分だ。誠実そうな人だったのに。

携帯を取り出した。『高守信行』、えい、電話帳から削除した。履歴も消さなきゃ…。

ドン。誰かにぶつかった。手から落ちた携帯は乾いた音を立てて弾んで止まった。画面に気を取られ前を見ていなかった。…はぁ、最、悪。割れたかも。

「ごめんなさい。前を見ていなくて。私が悪いんです」

「そうですよ?いい大人が歩きながらは止めましょう」

え?

「お出掛けでしたか?」

「あ、貴方…。猫の人…」

大丈夫かな、割れてはないね、はい、と、画面を指で払うと、拾い上げた手から私の手に渡された。

「フ。ちゃんと持ちました?…ニャー…危ないですからニャー。ちゃんと前を見て歩きましょうニャー」

「はい、解ってます…」

「ん?」

招き猫のように、猫の前足のつもりでニャーと顔の横で手を可愛く招いていたのに、私は完全にスルーしてしまった。

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