恋?…私次第。~好きなのは私なんです~
「はぁ、我が儘とまでは言わないけど、馴染む前から人間関係を嫌ってはどうかと思うんだけど…。仕方ない。こうと決めたら聞かない、…あいつに似ているところがあって頑固なんだ」
あいつとは元奥さんの事だろう。
「いけないね。興味のない話をまたしてしまったね」
口にご飯が入っていた。黙って首だけを振った。
「連絡して…連絡が返って来なかったようでしたが、その相手は息子さんにだけだったって事ですよね?」
飲み込んで口元を手で隠し言葉を返した。
「ん?襲われた時?」
「あ、はい、そうです。私はてっきり…奧さんに連絡されて、奧さんもバリバリ仕事をされていて忙しい人なんだろうなと、…そこも勝手に想像で思っていました。すみません」
「常識の範囲でしょ。このくらいの年齢の男だから。奥さんは居て当たり前って。そう思うのは普通だと思う」
「…すみません」
それが決めつけの思い込みだ。
「別に構わないから。息子にしたのも特に来て欲しいなんて連絡の仕方もしなかった。ただちょっと怪我をしたくらいの連絡だ。後で知らなかったなんて言われても面倒だしね」
そんなモノなんだ。
「仕事関係の方?」
いきなり女将さんが話し掛けてきた。お茶を入れた急須を持って来て置いた。
「ごめんなさい、お話に割り込んだりして。信さん、お休みの日だし。違うわよね?」
割り込んだのはわざとだと思う。
…え?私が答えないといけないのかな。目線は明らかに私に向いていた。…確認だ。私と高守さんの関係性を聞いているんだ。今、敢えてわざと、のぶさんて言った。これは…、私達親しいの、貴女なんかよりずっとね、だから割り込んで来ないでね、って感じだ。…はぁ、これは正直面倒臭い…。
「いや、そうなんだ。迷惑を掛けた事があってね、それで、食事でもってなって。聞けば和定食が好きだって言うから、ここがいいと思ってね。休みだけど出てきてもらって連れて来たんだ。ね?」
高守さんが答えてくれた。
どう答えようかと、取り敢えず私はお茶を一口飲もうとしていたところだった。慌てて、はい、と返事をして頷いた。
「あら、お詫びの食事にうちなんかでいいのかしら。先に連絡してくれたらもっと何かしたのに。もう、信さんたら、相変わらずね」
そう言いながらも満更でも無さそうな顔をしていた。そういう理由でここを選んだって事がそうさせているんだ。
「あの、私、ご飯とお味噌汁っていう定食が本当に好きなんです。そしたらここに連れて来てくれて…」
嘘ではない。特に理由なんて聞かなくてもいいだろう。だけど…どうして、こんな弁解みたいな言い方…。確かに特別な関係性ではないから、こう言って収めていた方が無難といえば無難。女将さんの気持ちを思えばこれで丸く収まるはず。