恋?…私次第。~好きなのは私なんです~

いい顔をしようとした訳じゃない。

「逢坂さ~ん」

あ、高守さんだ。

昨夜、メールの返事をしてからずっと引っ掛かっていた。

「待ちました?」

「いいえ。あの、今日の事、上手く言えないんですけど…」

「ん?行きましょうか」

「あ、はい。それで、あの、今日の事なんですけど…」

「その気も無いのに、いいって言っちゃった?後悔してる?」

…あ。やっぱり…迷いもせず即答した事、可笑しかったって思われてたんだ。

「後悔とは…それとは違います。ただ…昨夜、出掛ける事を断ってしまったから、その、お詫びみたいに返事をしたと思われて無いかなって」

…あ、これって、でも、高守さんがそうさせるように企んだの?って、言ってるみたいに取られないかな。

「考え過ぎだよ?そんな事まで思ってもみなかった、本当だよ?」

…どうだろう。

「本当だよ?来てくれるって返事を貰えた。そしてこうして、当日になってもキャンセルする事無く会ってる。それでいい、理屈じゃ無い。私はこの現実が素直に嬉しい…」

…どうだろう、本当だろうか。

「あれ…まだなんか思ってる?本当だよ?どれだけ言えば伝わるのかな。んー…。まだ、気が重い?」

「…え?あ、重いなんて、そんな事は…。私の思っていた事はお話ししましたし、もうそんな事は…」

…あ、駄目よ、もう、なんて言い方。結局渋々来たって思わせちゃう。来て言い訳が出来るまでは確かに重かった。

「重かったんだね。だったら、美味しくご飯を食べて帰ろう。今日、それだけの事だよ」

「…はい」

あ。はいで良かったのかな…駄目よね、重い事を肯定したようになって。もう…。はぁ…、気を遣わせる為に今日の約束をしてしまったみたいになった。…はぁ。

「気が乗らないなら止めて送るよ?」

「いえ、そんな事はありません」

…また顔に出てたんだ。心の中の溜め息…、聞こえちゃったのかも知れない。こんなんで高守さんは楽しいのかな…。

「そう?なら大丈夫かな?」

「はい、大丈夫です」

…あ…大丈夫って言い方はいいのかな。…もう、考え過ぎ?一言答えるだけで、グチャグチャして解んなくなっちゃった。はぁ。

「んー。ここは、オヤジの見せどころかな?」

「…え?」

「空気を読まないって体で。はい、オヤジ特有の、セクハラをします」

「えっ、……あっ」

びっくりした。言い終わるや否や、手を繋がれた。これが…え?セクハラ?この程度の事…セクハラになる?

「あー、やっぱりびっくりさせちゃった?大丈夫?嫌じゃない?」

「え?あ、はい、全然大丈夫です。セクハラなんて言うから、何事かと。セクハラってもっと…」

こっちが不快に思ってしまうような、ねちっこい行為や言動…。いきなりだったからびっくりはしたけど…。その程度の事だ。

「それ。手を繋ぐって事も本来は結構な事だよ?好きな人にだって拒否されたらって…、ドキドキもんだ。でも、セクハラしますって言っておいたから、これはハードルが下がったんだよ。黙って手に触れて握ったりしてたら、ちょっと何って、やっぱり印象は引くでしょ?敬遠してたでしょ」

言われてみたら確かにだ。もう、こう言われても、じゃあって、解けない気もする。…いや、嫌なら触れた瞬間、振り解いているか。……上手いなぁ。

「荒療治みたいになったけど、少しは気が紛れたかな。結果、ちょっとくらいドキドキしてくれてたら嬉しいけどね」
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