恋?…私次第。~好きなのは私なんです~

「あの…もっと沢山…」

「…ん?」

「あ、違います」

勘違いさせてはいけない。もっと抱しめて欲しいって事では無い。

「違います。ネクタイの事です。次に会う時まで預かっていましょうか、とか、色々と言葉を沢山送った方が良かったのかも知れませんが、そんな関係性でもないのかなと思って。次があるのかも解らないし…あんな短いメールを…、あの」

これをセクハラ…と、は、思ってない。でも。

「もう、離せって?」

記憶にない事…少しずつ小さい爆弾を落とされてる気がする。はい、という返事を忘れて、気になる事を優先していた。

「…私、…ボタンも外したんですか?そんな、何て言うか、誘惑っぽい事まで…ごめんなさい。酔って言動が可笑しかったと、許してください」

そんな事まで…黙っていきなりしたんだろうか。どんだけ記憶がないんだか…。なんて、今、考えていられる状況ではなかったんだ。
だけど、もう、離してくださいって、言い辛くなった…。

「誘惑っぽいと思った?…考え方はセクハラと一緒だよ。それを誘惑と取るか、…苦しいから外してくれたんだと取るかは受け身の人間が感じる事だ。私は…君に大いに好意がある。だから、誘惑とまでもいかなくても、ドキドキはしてしまった。今と同じ…、胸がどうしようもなく高鳴った。少しのアルコールのせいかと思った。布団の中でもあったし。
二つ外したところで止まったんだ。安心していい…君のした事は誘惑というより善意だよ。それ以外無いから」

話す声が遠くなった。身体が離れ、肩を掴んで離された。

「ふぅ…。君の気持ちも考えず、こうして一方的に欲望を満たしてすまなかった。今度こそ、本当に帰るよ」

「…あの」

「ん?」

「珈琲でも飲んでいきませんか?」

「…いや。はぁ…それは出来ないな。気持ちだけ頂いておくよ、有り難う。君と私では気持ちに差があるからね。朝とはいえ、これ以上居る訳にはいかないよ」

解るね。そう言ったつもりだろう。頭に手を置かれた。

落ちたネクタイを拾い、ポケットにねじ込むと、玄関に行った高守さんは何も言わず帰って行った。
鍵、直ぐ掛けるように、とは、もう言われなかった。

確かに気持ちに差はある。
こんな状況で珈琲なんて飲める訳がない。
珈琲を勧めたのは何となく口をついて出た言葉だった。言った私だって実際そうなっていたら、会話だってまともに出来なかっただろうけど。…気まずくなったら…。

衝動的に私を抱きしめていたとしても、高守さんは冷静だったって事だ。…ううん。私の言葉が冷静にさせてしまったのかも知れない。
帰るよ、と言った後、私が何も言っていなかったら…。何かもっと起きていたのだろうか。…はぁ。
朝から濃い…。これは昨夜の私が招いたモノだ。自分のせいだ。
それにしても、抱しめられて、突き放そうとも思わなかった。抱しめられた感触に覚えがあったからかも知れない。それが…心地良かった…?
私は高守さんの腕の感触を覚えていた?
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