恋?…私次第。~好きなのは私なんです~
私はごく普通の会社の、極々普通の会社員だ。
あの夜は、偶々遅くなって、偶々、あの公園を通っただけだ。もし私が先だったら、私が襲われていたのだろうか。それって、お財布だけで済んだのかな…。もしかしたら、女だからって酷い目に…なんて。んー、無い事では無い、よね?暗いし。…自意識過剰かな。
高守さんに連絡をしてみようとして、そんな事を考えていた。…よし。
あれから丁度一週間が経過した。自分の中で決めていた事だから携帯を手にした。…ふう。
メールの文字を入れた。いきなり電話をして都合が悪くて出られないかも知れないし、どういう状況に居る人なのかも解らない。…決して、直接話す事からちょっと逃げ腰になった訳ではない。
ハプニングに遭った時は、気遣うのもあって勢いで話せた部分が大きかったから…。面と向かってでは無いけど、あれから時間も空いた、改めて話すのは緊張する…と思ってしまったからだ。
【公園で出くわした者です。お怪我の具合はいかがでしょうか?逢坂梨央】
うん、こんな感じでいいと思う。連絡をして欲しいという約束は果たした。これで私の連絡先も解るし。別にお礼は必要ないけど、この先は高守さんが決めてくれるだろう。
暫く会社に居て、直ぐメールが返って来る事も電話も無かったから帰る事にした。今日の今日は何も無いって事だ。
もしもこの後、直ぐ誘われるような事にでもなるならと、少し身構えていたところもあったにはあったのだけれど…。
帰りましょうか…。
会社を出て暫く歩き、神社の裏の路地に入ろうとしたところで人影らしいモノが見えた。足を止めた。
…ちょっと悩んだ。私が直接被害に遭った訳ではないが公園での事もあった。出来るなら怖い目には遭いたくない。念の為と思い、踵を返そうとしたら聞こえて来た。
うるせーんだよ、という声の後に、鈍い音がして、小さく呻くような声だ。そして人が走り去って行く足音がした。…な、に?喧嘩?……強盗?
絶対いい事ではない。誰がどう感じたってこの様子、ただ事ではないと思うだろう。
「ミャー」
っえ?…びっ、くりしたぁ。…猫?…さっきのは…猫の呻き声?だとしたらかなりの大型?………化け猫、と、か?
シュッっと足元を毛の塊が走り抜けた。わっ…わ…あ、はぁ…やっぱり…猫だ。ただの猫じゃない…びっくりした…。ほぅと息を吐いて顔を上げた。
……え…わっ…い、居、た。ばけ、化け猫よー。
「……や、…キャー‼」
さっきは出なかった悲鳴が、振り絞るようにして出た。
「あ、え゛?ちょっと?…えー」
びっくりしてる…?
続けて、大丈夫ですか?ちょっと?…そんな、声を…聞いた、と思う。…オス猫が……喋った…。
「あ、おい。あ、ちょっと、お姉さん?」