恋?…私次第。~好きなのは私なんです~

「…んー。寂しいから一緒に居てとか、抱しめてとか、ボタンまで外すとか…本当だろうか」

「ん?なんですか?」

あ、考え事が声に出ていたんだ。違う違う、本当でもそうで無くてももう終わった事だ。首を振って少しよろけた。

「…あっ!」

「あ。おっと、ほら。ね?」

アパートの近くまで帰っていた。ここは私道だ。車の通りはほぼ無かった。

腕を引くように掴まえられていた。…助かった。こけずに済んだかも。

「はぁ、もう…危なっかしいなあ。言った通りだったでしょ?転ぶところだった」

「ちょっとよろけただけよ…。さっき程でもないし。でもごめん。先に有り難うって言うべきよね。口答えしてごめんなさい。支えてくれて有り難うございました」

え…何?

「あんまり有り難味が感じられないなと思って」

「え?そんな事は無い、…つもりだったけど?ちゃんとお礼、言ったでしょ?」

態度も言い方も上からだったかな…。淡々と言ったから、きっと、年上ぶって偉そうに見えたのね…そうね。

「何となく、大袈裟なのよねって感が否めない。言った通りになった事も、どこか気に入らないって感じで。俺なんかに言い当てられて、面白くないって思ってるでしょ」

「…うん。それは言う通りよ。何だか情けなくて。しないって言ってたくせに、まんまと考え事をして、結果よろけたなんてね。でも、本当に有り難うって思ってるよ?」

「…抱しめられたの?」

「え゛?」

「え?さっき、呟いたでしょ?他にも色々…それがあったから沸々なんでしょ?」

あー、うー。しっかり耳に入ってたんだ。

「詳しい事はその他諸々って事にしておいて!」

思い出してまた否定したくて首を振って…繰り返すだけ…。

「もう結構攻められてるじゃないですか。抵抗しないなら、いいって事になってしまいますよ?つまり、気持ちも、行為も受け入れたと思われてしまいますよ?
こういう風にされたら直ぐ突き放さないと」

掴んだ腕を引きながら踏み込んで来るようにして抱しめられた。え゛?ちょっと。ちょっと、いきなり、な、に?…ぁ、この香り。神社の時と同じだ…。スーッ…。んー。

「さあ、今ですよ」

「え?あ、練習?じゃあ…。駄目よ。こう?…え?」

…何だか…和んでしまっていた。言われて慌てて腕を動かそうとした。離そうにもビクともしなかった。腕の中で、"気を付け"の自分の腕も身体も、身動きすら出来なかった。回された腕は更に強くなった気がした。

「どうしました?全然駄目じゃないですか。こんな事ではこれ以上攻められたら完全に逃げられませんよ?本気で離そうとしてます?」

「ん゛ー、してる。はぁ。…したけど、だって、力が…。圧倒的に違うから…」

こんなに包み込まれては無理に決まってる。

「フ。そんな事は初めから解ってる事です、…普通に男と女なんだから。…いい練習になったでしょ?後追いですけどね」

背中に回された腕が緩んで解放された。
はぁ。本当に敵わないモノだ。男の人が恐いって思っておく事も大事ね。

「…じゃあ、帰りますね。あ、もうこれ以上、階段でふらついたりしないで下さいよ?転落までしたら終わりですよ?」

「じゃあ…、心配なら部屋の前まで、ちゃんと送ってよ」

「…え」

「どう?」

「え?…」

「フフ。ねえ、今の、ちょっとはドキッとした?今のは練習の仕返しよ?私は言葉の練習をしたのよ」

ピースをして見せた。

「…あ。フ。…ですよね。はぁ…しましたよ、ドキッと、充分にね。じゃあ…、また」

「あ、うん。有り難う。本当に有り難う。本当よ?」

解ってます、と、笑われた。

あ、…またって。私達は…また会う事ってあるのかな。
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