恋?…私次第。~好きなのは私なんです~
…何だか、…煙草の匂いと…クン、クンクン、…いい香りが身体の方からする。そう思って目を開けたら覗き込んでいる顔と目が合った。
「え?…いっ」(嫌ー!)
「あ、ちょっと待った!…もう勘弁してください…はぁ」
覗き込んでいた主の手で口を塞がれた。口の中で言葉がモゴモゴした。…これは一体…どういう状況だろう。目はキョロキョロ、口はフガフガと息だけが抜けた。
「あー、すみません。ちょっとうなされてましたよ。俺は化け猫でもありません。強盗でもありませんから。大丈夫ですよ」
困った顔で、いいですか?離しますよ、と言い、頷く間も待たずに塞いでいた手を除けられた。
「やっと気がついてくれましたね。あー、ちょっと待っててくれますか?」
私を、寝かせていた膝からゆっくり起こすと、立ち上がり、行ってしまった。あ、ちょっと?
どこに行ったのだろう。
えっと…ここは…キョロキョロしてみた。どうやら神社の建物の階段らしい。先には参道が見えた。手前には賽銭箱に、…鈴、だ。あ…ここまで運んでくれたって事なんだ。…はぁ…重かったでしょうね…ごめんね。
…あ、いい香りの元はこの上着だったんだ。
ガコ、…ガコッという音が聞こえてきた。
濡れたハンカチ…私、気絶していたって事、だよね。
「はい、どうぞ。気付けに」
男性は缶コーヒーを手に戻って来た。膝に置いていた手に渡された。温かい…。
「びっくりしましたよ。いきなり悲鳴を上げて気を失ったから、何事かって。もう大丈夫ですよね」
…え?あ、そうだ。その前の事。話せば解ってもらえるはずだ。
「ごめんなさい…迷惑掛けちゃって。…重かったでしょ?
それは、えっと、何だか呻き声と猫の鳴き声がして、人と猫が走ったから」
…。目が点になってる。物凄く難解な顔をしてる。薄暗くて解り辛くてもきっとそう。
私の話は、それが?って疑問にしかならない話し方だ。
「フ…まだ動転してます?つまり、こうですよね。俺が猫を庇って男に殴られたのを、声だけ聞いた、って事だ」
え?殴られた?
「貴方も?」
「え?」
「あ、いえいえ。何でもないです」
貴方もって事は無いわよね。高守さんの事件とは関連性のない事なんだから。でも、殴られたんだ。あの微かな呻き声はその時の。
「あ…。あの、猫を庇ったって?…」
「あー、それは、その男が猫に八つ当たりしてたからです。上手くいかない事でもあったのかも知れないけど。だからって、弱いものに当たっては可哀想だ」
…確かに。尤もだと思う。その上、止めさせようとした貴方にも暴力を…。