恋?…私次第。~好きなのは私なんです~
「じゃあ、帰るよ」
「はい」
「あまり急いだ話でもないけど、どこかの土日で都合をつけられるかな。夜より昼間がいいと思ってる」
「はい、私はどの日になっても大丈夫ですから」
休みに用という用はいつも無いから。
「次は駄目だろ」
「え?」
「ハリネズミ、触りに行くから」
「あ。フフ。それは、後回しでも…」
「駄目だ。大事だ。私たちの大事な約束だ」
「はい。では、そのカフェに行ってから後の休日で。お願いします」
「うん。…梨央」
はい、と返事をしようとしたけど塞がれた。程よく軽く触れると抱しめられた。これも、ふわっと優しくだ。
「じゃあ…」
「…はい」
とてもドキドキしていた。大人なのに、照れ臭かったりするこの間が、何とも恥ずかしくて、顔が見られない。
指先に手が触れ、握られた。
「梨央…こんなに帰り辛くなるなんて…情けないな」
「…連絡、します」
「…梨央」
「私からしても構わないですよね?」
「あ、あぁ。勿論だよ。いつだって構わないから」
「はい。…いってらっしゃい」
「うん。じゃあ」
「…はい」
…。
どんなに離れる言葉を繰り返し口にしても、中々離れ難い。そんな感覚って、こういうモノだった。それを思い出していた。好きの始まりはどこかムズムズドキドキして落ち着かなくて、何か大切にしなきゃいけないモノが芽生える…。
高守さんがやっとドアを開けた。
「都合が解り次第、連絡するから」
「はい」
少し事務的な話し方をして手を離し、ゆっくり向きを変えると玄関から出た。あ…、高守さん。
ドアが閉まった。…帰っちゃった。
…昨夜は何も無かった。初めて心を通わしながら過ごした一晩だった。でも、それがとても良かった気がした。
間違いなく、私は高守さんに好意を持っていると思った。