恋?…私次第。~好きなのは私なんです~

「じゃあ、帰るよ」

「はい」

「あまり急いだ話でもないけど、どこかの土日で都合をつけられるかな。夜より昼間がいいと思ってる」

「はい、私はどの日になっても大丈夫ですから」

休みに用という用はいつも無いから。

「次は駄目だろ」

「え?」

「ハリネズミ、触りに行くから」

「あ。フフ。それは、後回しでも…」

「駄目だ。大事だ。私たちの大事な約束だ」

「はい。では、そのカフェに行ってから後の休日で。お願いします」

「うん。…梨央」

はい、と返事をしようとしたけど塞がれた。程よく軽く触れると抱しめられた。これも、ふわっと優しくだ。

「じゃあ…」

「…はい」

とてもドキドキしていた。大人なのに、照れ臭かったりするこの間が、何とも恥ずかしくて、顔が見られない。

指先に手が触れ、握られた。

「梨央…こんなに帰り辛くなるなんて…情けないな」

「…連絡、します」

「…梨央」

「私からしても構わないですよね?」

「あ、あぁ。勿論だよ。いつだって構わないから」

「はい。…いってらっしゃい」

「うん。じゃあ」

「…はい」

…。

どんなに離れる言葉を繰り返し口にしても、中々離れ難い。そんな感覚って、こういうモノだった。それを思い出していた。好きの始まりはどこかムズムズドキドキして落ち着かなくて、何か大切にしなきゃいけないモノが芽生える…。

高守さんがやっとドアを開けた。

「都合が解り次第、連絡するから」

「はい」

少し事務的な話し方をして手を離し、ゆっくり向きを変えると玄関から出た。あ…、高守さん。

ドアが閉まった。…帰っちゃった。

…昨夜は何も無かった。初めて心を通わしながら過ごした一晩だった。でも、それがとても良かった気がした。
間違いなく、私は高守さんに好意を持っていると思った。
< 66 / 92 >

この作品をシェア

pagetop